9月末の“朝日地球会議”にてパスカル・ペリノー(パリ政治学院教授)、ヤン=ヴェルナー・ミュラー(プリンストン大学教授)、コリン・ウッダード(ジャーナリスト)、佐藤優(作家)の各氏がポピュリズムと民主主義について語り合うシンポジウムが行われた。司会は西村陽一・朝日新聞常務取締役が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
西村「民主主義や政党政治は、欧州のポピュリズム政党の台頭やトランプ政権の誕生により、弱体化して危機に瀕しているとさえ言います。
ポピュリズムとは何でしょうか。ミュラーさんによると、ポピュリズムとは自分たちだけが国民を代表するという主張、一切の異論を認めない反多元主義に特徴があると言っておられます。
ペリノーさんは政党の弱体化こそがマクロン政権を誕生させた、マクロンの勝利は世界の政治システムの変化を象徴すると言っておられます。ポピュリズムは民主主義の機能不全を刷新する可能性、民主主義の脅威となる危険性を指摘しています。
ウッダードさんは、特有の歴史、価値観を共有する地域的文化圏 を意味するネーションという概念を言われました。アメリカは11のネーションがあり、その勢力図で歴史と現在が判るということです。
政治、民主主義、人工知能、宗教に至るまで発信と執筆をされている作家・佐藤優さんにご登壇いただいて、海外の方の分析を受けとめていただきたいと思います」
【パスカル・ペリノー氏】
ペリノー「ポピュリズムという問題を取り上げる前に、問いかけがあります。ポピュリストとは何か。ポピュリズムをどう定義するべきか。どういった措置があるのか。各国の選挙においてポピュリズムが、どれほどの力を持っているのか。
ポピュリズムは多様で、複数のものを見なくてはいけません。多様なポピュリズムは右派だったり左派だったりしますが、共通点を見ていきたいと思います。
現在のポピュリズムの台頭の理由は何なのか。ピエール=アンドレ・タギエフは、ナショナル・ポピュリズムについて、古代のころから国民はふたつの側面で見なされたと言っています。ひとつは民族的な観点から考える国民。ひとつは腐敗していない人びとと腐敗したエリート。ポピュリズムはある意味で抗議をするものです。庶民、弱い者が強い者に異議申し立てをする。そして同時に国民的なアイデンティティを主張するものです。エリートや外国人によって危機にさらされるアイデンティティを守るという側面もある。
ポピュリズムの規模はどのようなものなのか。ヨーロッパの一部の国々では、ナショナル・ポピュリズムが重要な勢力になっています。オーストリアでは26パーセント。イタリアでも、さまざまなグループを合わせれば50パーセント。スイスでも第一党になっています。20〜30年前はマージナルだったものが、随分強くなっているわけです。
ポピュリズムとひとことで言っても、いろんな顔があります。国の団結、統一性を重視するポピュリストもいれば、古い国家は分裂させるべきだというベルギーやイタリアのようなポピュリストもいる。オランダなど経済的にリベラルなポピュリストもいます。フランスなどは国家介入主義的なポピュリストです。このように多様であるので、ナショナルポピュリストは欧州議会でなかなか連携して会派をつくることができません。ルペン氏が率いるグループがありますけれども、ナショナルポピュリストのほんの一部しか結集していません。4つのグループがありますが、なかなかひとつにはまとまれない。
多様性があるからと言って、共通点がないわけではない。中央集権的・党派的な運営を行っていて、カリスマ的なリーダーのもとに集まっている集団で、主に抗議をして統治を想定していない。デマゴギーという古いやり方を躊躇なく使います。みな外国人が嫌いで、ときには人種差別的です。EUにも敵対的です。過度に反システム的な言辞を用い、すべてはシステムが悪いという感じになります。
2019年5月に欧州議会選挙があります。ナショナルポピュリズム勢力は、EUをスケープゴートにしつつあります。フランスでは、国民連合のポスターが、ヨーロッパがいかにフランス共和国の象徴を痛めつけているかを見せています。デンマークのポピュリスト的な党のそれは、ヨーロッパの手がデンマークの国旗を締めつけています。オーストリアのでは、ヨーロッパは愚かしいなどと書いてあります。フランスのポスターなんですが、“われわれは人種差別主義じゃない。外国人や移民がフランスに来て、敵対的に差別しているのだ”というようなことを言っています。外国人排斥まで進むこともあります」(つづく)
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