私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

是枝裕和監督 トークショー レポート・『万引き家族』(2)

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(海外の観客のことは)あまり考えないようにしていて、意識はしてないですね。抜けた歯を屋根に投げるとか、西洋の人には判らない。ただ韓国に行ったら、上の歯は軒下に、下の歯は屋根にっていう風習はあります、と。アジアだと判ることはあるんですね。

 『歩いても、歩いても』(2008)っていう映画で、蝶々が家に紛れ込んだら死んだ息子だとお母さんが思い込むっていうのも、東南アジアで蝶々が死んだ人の魂を運んでくる捉え方はあるって言われて、東洋的なエピソードだなと。ヨーロッパでも何となく判るかなというようなのは残すようにしてます。伝わらないのは日本人にも伝わらないんで。 

(海辺のシーンで祖母〈樹木希林〉が何かをつぶやく)言葉になってないですが、口の動きは希林さんの「ありがとうございました」。初見では判らないかもしれません。台本になくて、現場で希林が自分で思いついた。編集室でみんなで見て、ありがとうございましたって言ってる。衝撃的だったです。よく見ると判るけど、外国の人には字幕を入れないと判らないだろう。実際はカギ括弧つけた斜体(の字幕)にしました。悩んだんですけど、伝わらないよりは伝えたほうがいいかなと。

 池松(池松壮亮)くんに出てもらうならと欲が出たのかな。『海よりもまだ深く』(2016)に出てもらって、ハナレグミのプロモーションビデオを撮らせてもらって、色っぽくていいよね。ちょっとでも出たいと言ってくれて、そういう役がなくて。最初は店長の役で、松岡(松岡茉優)さんとからむ役。ああいうお店を取材をすると、店長と女の子がそういう関係になるケースが多々あって(笑)、面白くなくなった。書こうとしてたことが現実にあったんで、変えようと思った。それでお客さんにしちゃったんです。

 判らないことはリサーチします。養護施設もいくつか、親元を離れて集団生活をしている子どもたちの生活を取材させてもらいました。再現するのではなくて、そこからヒントをもらうんですね。養護施設で親元を離れている女の子が本をしまってたから「何勉強してんの?」って訊いたら、説明しないで国語の教科書を開いて『スイミー』(好学社)を読み始めた。施設の人が止めてるのに最後まで読んでくれたの、立ったまま。みんなで拍手して、帰り道で『スイミー』を読むシーンを書こうと。

 (『そして父になる』〈2013〉にも、本作と同様に大人が子どもを追いかけるようなシーンがあり)子どものほうが先に大人になってく。それでそういうシチュエーションを選んだのかな。あまり意味を考えてるわけではないので。次の映画にそういうシーンがあったか考えたんだけど、いまんとこないです(笑)。 

 ポスタービジュアルは、いくつか候補があった中でこれに着地しました。ロケの日にスチールの人呼んで、撮影の中で1、2時間とってやります。前回の『三度目の殺人』(2017)でほんとに悩んで、今回は意外と安産でした。悩んでないけど大丈夫かなと思ってました。

 中国では6000スクリーンで、日本の20倍。どうなっちゃうんだか。どう受けとめてもらうか。国によって風俗のシーンはカットしたり、おしりが出てるとダメだったりするので、ここはカットしたいって提案が来て、応じないと一般公開できない。中国もカットしてるでしょうが、十分伝わるようになってると思います。

 晩ご飯食べたら時差ぼけに襲われて、ここ来たら元気になって(笑)ありがとうございました。

 ちっちゃく産んで丈夫に育てようと思ってたら、大きな展開になってしまい、ありがたい話なんですが。こんな映画が、みんなで万引きする話が広がりを見せると思っていませんでした。幸せな形で届けられたと思っています。

 新作(『真実』〈2019〉)は、あさってパリに戻って、2か月準備して、10月1週目くらいにクランク・イン。カトリーヌ・ドヌーヴさんと、ジュリエット・ビノシュさんと。旦那さん役でイーサン・ホーク。子どものオーディションしていて、素敵な女の子ひとり選んで、9割キャストが固まりました。あとはぼくが脚本をがんばんないと。言葉が判らないんですが、自分の書いた脚本だとお芝居をしてもらっても、この子うまいとかこの子はいまひとつとか判るようになってきて、大丈夫かなと。判らないところは、イーサン・ホークにお願いしようと(一同笑)。子どもからうまく自然に引き出すというのは、『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)でもリチャード・リンクレイターという監督と組んだ作品でイーサン・ホークは経験済みなので、ぼくがイーサン・ホークにサジェッションして、子どもにアプローチしてもらうという裏技を。子どもを自由に泳がせると、どこでオッケーするかが。子どもだと、言葉の壁がプロの役者以上に立ちはだかる。そこがチャレンジかなと思ってます。12月中旬まで撮影して、来年4月完成の予定でおります。猛暑の東京は離れさせていただいて、湿度の低いパリで残りの夏を過ごしたいと。新作を持って戻ってこられたらと思っております。お元気で(一同笑)。