私の中の見えない炎

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金井美恵子 × 野崎歓 トークショー レポート・『噂の娘』『「スタア誕生」』(3)

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金井「セット問題と同時に『噂の娘』(講談社文庫)と『「スタア誕生」』(文藝春秋)の違いっていうのは、『噂の娘』には語り手の子どもが読んでる小説が出てくる。それが「秘密の花園」。

 『噂の娘』から10年くらい経ったころにスーザン・ソンタグが『火山に恋して』(みすず書房)っていう小説書いてて、分厚くて部分部分しか読んでないんですけれども。ネルソン提督とレディ・ハミルトンの話ですね。『美女ありき』(1941)という映画があって、ヴィヴィアン・リーとローレンス・オリビエがやった話。それを思い出したんですね。その映画をもとにしてソンタグが書いたとは思わないけれども。当時のベネチアの話や火山の話とか出てきて。読者としてロマンチックな小説もリアリズムの小説もいろいろ読んできたわけですけど、メロドラマ的な小説を自分で書いてみたくなる。ソンタグもそういうことがあって書いたと思うんです。ロマンチックでドラマチックな、ジェーン・エアみたいなのを読んで、誰でも書いてみたくなる。子どものころに「秘密の花園」を読んで、インドで親たちが死んで取り残されて、目を覚ますと蛇しかいない。そういうところから始まるのが好きでした。超訳、自分で勝手にしちゃう訳で読んだんですが(笑)、講談社ので読んだのか覚えてないんですけど、金子光晴の奥さんのもりみちよさんあたりだったのかもしれない。メアリーが花園の鍵を見つけるけど、雨が降って行けなくて、退屈してたら女中さんが“お嬢さま、手芸をしたらどう?”って糸と針と切れを持ってきて鍵を入れるものをつくる。そこが好きだったんですけど、話の筋とは関係なくて。アウトドアの話に何でインドア的なものが出てくるのか、不思議で。大人になって「秘密の花園」のいろんな翻訳を読んだら、その話は出てこない(一同笑)。妄想だったかもしれないし、翻訳した方が入れちゃったのか判らないんですけど。『噂の娘』にバーネットの話を入れたのは、「秘密の花園」の刺繍のエピソードを書いちゃったのと同じような感じで」

野崎「少女が読んでる本だと思っていると、「秘密の花園」と同じではない。言葉が増殖してて、何だろうと」

金井「とってつけたように」

野崎「そのインタビューの本(『成瀬巳喜男の設計』〈筑摩書房〉)が出たときは嬉しかったですね。成瀬は再評価が遅くて、本が全然ない。そしたら出て、セットをどうやってつくるかが語られて。成瀬が切り返したとき、充実したセットがある。小説につながっていくのもすごいですね(笑)」 

成瀬巳喜男の設計―美術監督は回想する (リュミエール叢書)

成瀬巳喜男の設計―美術監督は回想する (リュミエール叢書)

 

金井「ときどき読み返したんですけど、『カストロの尻』(新潮社)を書いたときに、「新潮」の同じ2015年9月号に四方田犬彦さんが「大泉黒石表現主義の見果てぬ夢 幻の溝口健二『血と霊』の挫折」を書いてて、刺激的な文章で。『血と霊』(1923)は関東大震災の年の映画で、日活の向島撮影所で撮られた表現主義的な作品ですね。溝口研究家の佐相勉って人が、セットは久保一雄を担当した可能性が高いと。ここを読んでて、中古さんが例の本で溝口の『血と霊』について話してる。東大の映画批評書いてる人が来たからかましてやるって思ったのか、脅すようなことを。エロ話とかかますんですよ(一同笑)。フィルムも残ってない映画なんだけれども、中古さんは久保さんの奥さんから聞かされていて、向島にいたときこういう映画をつくったと自慢してたと。『カリガリ博士』とか表現主義映画の影響もあったし。大泉黒石はホフマンの『スキュデリー嬢』をヒントに小説を書いて、それを原作に映画がどうつくられたかを説明してる。大震災が来て、向島の大道具の人によく“てめえがひん曲がったものをつくったからあんな地震が来た”と言われたと(一同笑)。久保一雄と溝口健二がそういう映画を撮ってたと知ってたんですが、佐相勉さんは翌1991年にリュミエール叢書から本を出してるんですが、中古さんのことは書いてないらしい。リュミエール叢書の編集者は両方読んでるはずだから言うべきですよね」

野崎「ぼくはいま挙がった本は全部読んでるんですが、何ひとつ覚えてない(笑)」

金井「久保一雄さんは私のうちの遠縁に当たるんですね。子どものころから、そういう美術監督東宝にいるって聞いていました。なつかしい名前でしたね。書評を書いたら、中古さんがご遺族に連絡してくださって、その後にお会いしましたね。

 『「スタア誕生」』の金魚の娘が大道具係といっしょになるというのは、この『成瀬巳喜男の設計』の影響もあるかな」

野崎「このおばあちゃんはいいですね」

金井「いいですよね(笑)」

野崎「みんなでおやつ食べようかというとき、いま食べると後で入らなくなるとか」(つづく) 

『スタア誕生』 (文春e-book)

『スタア誕生』 (文春e-book)