私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

金井美恵子 × 野崎歓 トークショー レポート・『噂の娘』『「スタア誕生」』(2)

f:id:namerukarada:20180609032721j:plain

野崎「(「早稲田文学」には)片岡(片岡大右)くんが力作を寄せてます。現代詩手帖賞をお取りになったときの写真を、片岡くんが載せています。受賞の言葉が金井エクリチュールそのものですね」

金井「とってなかったので、びっくりました。50年ぶりに片岡さんが引用してくださって」

野崎「きのう書かれた文章みたいですね。教師から見ると、がっくりきます。書ける人間は最初から書ける」

金井「教育しなくていい」 

早稲田文学 2018年春号 (単行本)

早稲田文学 2018年春号 (単行本)

 

野崎「大学来るなっていう(一同笑)。高崎のお生まれで、現住所も書いてありますね」

金井「特集のために昔の本を読んでたら、筑摩書房版の『愛の生活』の後ろに住所が載ってるの。こんなのありだったかな」

野崎「文句がある奴はやってこいと」

金井「手紙はずいぶんもらいましたね。高崎に来る人はいかなかったけど、東京に住み始めたら、直接来る人もいました。その中につげ義春がいましたね」

野崎「いましたねって(一同笑)」

金井「写真を見ておかっぱの髪型が気に入ったんじゃないかと、周りに言われました。「紅い花」の女の子みたいな。(自宅に)いきなり来て、びっくりましたよ。ストーカーですね。喫茶店に行こうとしたら、コーヒーや喫茶店が嫌いだって。目白の駅前にうどん屋があって、2階でうどん食べて。ついこないだ姉と目白の話をしてて、あそこは元はうどん屋だったって話してて、そういえば! そこにつげ義春と行ったことがある(一同笑)。ほとんど口を聞かない人で、よく判らない。マンガは読んでたんですけど、つげさんが私の小説を読んでるわけじゃないし(一同笑)。1回会っただけですけどね」

野崎「「早稲田文学」の中で絓秀実さんが「金井美恵子レーニン主義」と書かれていて、シャープですね」

金井「小説を書きながらエッセイや批評を書いてきたわけですけど、東北の地震について、言説に対する怒りみたいなのを『目白雑録5』(朝日新聞出版)に書いたんですね。それは批評されることがなくて、絓さんが書いてくれて、読んでてくれたことが判ってほっとしました。共有する読者と書き手がいて。反応がないっていうのは厭な感じです。ストレートな反応を期待して書いて、反応がないというのは情けないですね」

野崎「愛猫の死に接する金井はほとんど母親の死に接したバルトのようであるっていうのは、これちょっと違うんじゃないか(一同笑)」

金井「違いますね。猫が母親って化け猫ですね。入江たか子じゃないんだから(一同笑)」

野崎「昔姉妹でお描きになった絵を使われてますね。天使の。カトリックに接近してたとこですか」

金井「何でそんなの描いたのかな。スペインの映画で「マルセリーノの歌」とかカトリックの児童物というか、幼ごころの純真さみたいなのが流行ってたから、その影響かもしれないですね」

野崎「奥付を見ると、『噂の娘』(講談社文庫)を「群像」に連載されて、2002年に本になさって。今年刊行された『「スタア誕生」』(文藝春秋)の第1章は2002年に「群像」に書かれて、『噂の娘』を本にされてからすぐに」

金井「私はすぐ書くつもりだったんですけれども、「群像」の編集者が交代したり。つくってくださった方も定年退職で、親しい編集者がいなくなっちゃったんですね。無視されて、反応もなく、注文も来なくてそのままになっちゃったんですね。10年以上、その間に別の小説書いてたんですけど」

野崎「すごく評判になった気がしたんですが」

金井「書評はたくさん載りましたよね。舞台の町に名前がないし、語り手の女の子の名前も出てこない」 

噂の娘 (講談社文庫)

噂の娘 (講談社文庫)

 

野崎「目白は金井さんの小説世界に出てきますが、一方でこの町に名前を与えないというのは…。『「スタア誕生」』の梁川町は高崎にありますね。駅のすぐのところで、烏川が流れて、トポスって言うか現実の場所として想定されているのはそのあたりになりますか」

金井「そうでもなくて。『噂の娘』を書き始める前に、『柔らかい土をふんで、』(河出文庫)っていうのを書いたんですけれども。『噂の娘』を書くにあたって(意識したのは)成瀬巳喜男の映画『噂の娘』(1935)なんですね。発表当時は評判がよくなかったらしいんですけど、とても面白い映画で。書き始める前に読んだのが美術の中古智に蓮實重彦さんがインタビューした『成瀬巳喜男の設計』(筑摩書房)。1990年に出た本。読んだ後で東京国際映画祭で『噂の娘』を見て、すごく面白い。主人公が酒屋の娘で、酒屋の前に床屋がある。床屋が近所の噂を広めて。そのセットは中古さんではないですが、凝ったセットでした。鏡の使い方とか中庭の菊の花とか、面白かったんですけれども、小説を書く前にセットをつくりたいっていう願望をかき立てられた。映画とか小説の高崎の自分の記憶とかをごちゃ混ぜにした商店街、地図もつくって、書き始めたんですけれども。現実のものじゃないんです」(つづく) 

柔らかい土をふんで、 (河出文庫)

柔らかい土をふんで、 (河出文庫)