私の中の見えない炎

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金井美恵子 × 野崎歓 トークショー レポート・『カストロの尻』(1)

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 かつて「愛の生活」(『愛の生活・森のメリュジーヌ』〈講談社文芸文庫〉)により鮮烈にデビューしてから作家生活50年を迎えた金井美恵子

 2018年には『カストロの尻』(新潮社)により芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した。映画にも造詣が深く、筆者には辛口の映画批評や蓮實重彦山根貞男との毒舌映画談義の印象も強い。

 6月に下北沢にて、金井氏と野崎歓東京大学教授とのトークショーが行われた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。 

カストロの尻

カストロの尻

 

野崎「金井さん、デビュー50周年ということで」

金井「50年は半世紀ですから、長いですよね」

野崎「びっくりしましたね。芸術選奨文科省の賞ですね。『カストロの尻』で受賞なさった」

金井「こないだ亡くなった朝丘雪路さんも受賞なさって。略歴ではその後でも勲章をふたつもらってて、芸術選奨は勲章もらうための手続きみたいな。

 私が「新潮」に芸術選奨について書いたのを、文科省の役人が読むとは思わないので言うと、いかに賞金の30万が安いか(一同笑)。失礼ですよ。何とか勲章は段階的にもないし(笑)」

野崎「あの賞は70歳を越えると対象にならなくて、ぼくは去年まで選考に携わっていて、悩みました。70になったらダメなんじゃないかとか思う。いちばんいいのが消えていっちゃう。いま100歳まで生きても驚かないのに、小説家は70で止めろってことでしょうか」

金井「私は50周年で出したわけで、賞をもらうのも30年ぶりだったわけで。お金も30万。“50年、30年、70歳、30万”というタイトルを思いついて「新潮」にエッセイを書かせてくれって言ったんです。賞よりかタイトル思いついたのが嬉しい。野間賞は300万だから決まらない。30万だから決まる(一同笑)。でもみじめでいいな、やったねって感じです」

野崎芸術選奨のタイトルが『カストロの尻』って痛快ですね。最近の文部官僚も判ってる。金井さんの作品の中からこれを推すっていうのは」

金井「文部官僚が推すわけじゃなくて、文部官僚の選んだ選考委員が。エッセイ書くのは愉しいけど、読むのはね(笑)」

野崎「装丁が派手ですね。その後に『「スタア誕生」』があって、いまの金井さんの充実ぶりが判るんですね。

 金井さんの50周年というのはイメージがずれてると思ったんですが、ティーンエイジャーからずっとやってこられて、50周年が似合わない。小さい本屋さんに行ったら、56人のおばあさま方が来て。“あの本あるかしら!”って乱入してきて、曽野綾子の『夫の始末』。みなさんで盛り上がって“あった!『夫の始末』”って。そのひとりが“私、夫の始末はとうにつけてたわ!”とか言って。そういう方たちが曽野綾子さんを支えてる。50〜60周年という感じがします。でも金井さんは若い読者が常に支えてるイメージがあるんですね。金井さんを読む人はみんな若い(笑)。「早稲田文学」の特集号にも現れてると思うんです」

金井「50周年特集をやりたいって言われて、思ったのは年齢ですね。私より年上の人間と60過ぎの人間は出さないでおこう、お断り」

野崎芸術選奨的な発想ですね(一同笑)」

金井「なるべく若い方に書いてもらいたい。小説家の仕事は外にも行かないし、人づき合いも少ないし。小説家とつき合うこともないし、編集者の方とも小説の話はしない。自分の小説が読まれてるのかは判らないですね。書評が載ったりするけど。孤独というか、みじめというか、そういう職業なんですよ。編集者って気の合う方もいるんだけれども、私の小説を読んでる若い作家を紹介するような気持ちはないのかな。この人、私の小説を読んでるんじゃないのかって見当つく作家がいても、“いや、読んでないと思います!” なんて何度聞かされたか(一同笑)。誰も厭な思いするんじゃないかな、読まれてないって言われたら」

野崎「それはお世辞でリスペクトしてるって言ったほうが(笑)。でも金井さんの場合はお世辞ではなくて、20代から読まれている稀な例だと思います」

金井「若い作家が読んでくださるのは嬉しいですね。私と同じ世代の作家は、中上(中上健次)さんにしても津島(津島佑子)さんにしても早く亡くなってしまって。団塊の世代という枠で、不思議なものです。特徴っていうのはないと思うんですね。中上さんとは気も合ったけど、津島さんにしても、小説に共通点はない。同じ物を読んでる部分もあるけれども。小説的に関係はない」

野崎「「早稲田文学」の特集は充実していて、自分も書いてるんですがもちろん自分以外が(笑)。現代の作家でこれだけの特集号をつくってもらえる作家がいるかなと」(つづく) 

早稲田文学 2018年春号 (単行本)

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