私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

竹下景子 × 森本レオ × 堀川とんこう × 工藤英博 × 鈴木嘉一 トークショー “制作者が読み解く市川森一の魅力” レポート・モモ子シリーズ『十二年間の嘘 乳と蜜の流れる地よ』 (5)

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【モモ子シリーズ(2)】

竹下「(『十二年間の嘘』〈1982〉では)堀川さんが、いいね、これもいいねって言ってくださって。ソープランドのお仕着せのものは衣装さんが用意してくださいましたけど、私服はほぼほぼ自分です。緑山スタジオで赤い長襦袢1枚で行ったら、堀川さんは“かわいそうだね”(笑)。でも私じゃないって割り切ってました。いまだったら何をやっても私の切れ端が顔を出してるって思うんですが、当時は私じゃないものができるって感じてましたから何も怖いものはない。そう思わせてくれたのが市川さんのホンと堀川さんの演出です」

堀川「衣装を持ち込んでくるってたまにあることで、大概そんな綺麗なのじゃダメよっていう。景子さんが持ってきたのは、ぼくの想像よりはるかに品がない(一同笑)。ほとんど全部採用しました。主にラメ入りのものとか」

竹下「冒頭のベビードール、絞め殺されかかるところはもしかしたら衣装部さんじゃないですか」

堀川「マネージャーさんが撮影のとき、景子が這っていくところ、おしりのアップはやめてくれと(笑)」

竹下「パンツの線がそのまま(笑)」

堀川「怖いものなしな感じが結果的によかったですね」

鈴木「無理したところがなく、もう5年くらいモモ子やってるみたいな(笑)」

竹下「(笑)いま見ると芝居がおぼつかない感じがして、いまがいいってわけではありませんが。当時は丁寧で、リハーサルも丹念にできましたし、テクニカルのスタッフさんにも“この向きのほうがいいんじゃない?”って言われたり。そしてとんこうさんの趣味だと思うんですが、脇が固い。蟹江(蟹江敬三)さん、季衣(根岸季衣)ちゃんも何回も出てくださってますけど。この後は橋爪(橋爪功)さん、柄本(柄本明)さんが何度も出てくださって。『十二年間の嘘』で言えば佐藤慶さんですね。福島弁のリアリティが骨太にしてくれました。結構慶さんは酔っぱらいだったんですけど(笑)」

堀川「会社を訪ねていって、エレベーターから降りてくる場面。あそこはほんとに酒くさかった(一同笑)」

竹下「そうしないといられない何かがあったのかな」

堀川「中から壊れていく人間の怖い感じが出てたね」

鈴木「奥さんを殺す前に土地の砂を手にかける。あれは脚本にあったんですか」

堀川「あったと思いますね。ひょっとするとないかも。ホンにあればもっと判りやすくちゃんと撮ったかな。

 若かったということもあるけど、景子さんを綺麗に撮ろうとしてない。見てちょっとびっくりした。綺麗に撮ろうと思ってないのが若さで、無遠慮な感じがいいのかもしれないけど。『グッドバイ・ママ』(1975)で主演女優さんの後ろ姿を見て“逆さらっきょう”って言うシーンがある。おしりを言ってて、ぼくはびっくりしたけど、市川さんはそういうのいっぱい知ってる(笑)。良家で口にしない台詞が出てきて、市川さんは聖書がそばにある生活をしてきて、聖書に背くか従うか、そういう問いが心にあったように思います。聖書に対する疑い、うらみつらみ、心酔する思いが脚本に現れてくる。景子さんも出てる『受胎の森』(1985)というのでも、それを感じました」

竹下「人工授精の物語ですね」

鈴木「クリスチャンでしたが仏教の戒名も持ってらっしゃった。ひとつの神さまにこだわってない(笑)」

竹下「そういうところは日本人らしい。『十二年間の嘘』のおばあちゃんの漬け物石、何でこんなに大事にするんでしょうって伺ったら、この石は神さまだって。意味が判らなかったですが、ふっと自分が帰れる場所。信仰とか神さまってそういうものかな。ばあちゃんがいつもモモ子をあたたかく見ていて、ばあちゃんと神さまと漬け物石が結びついてる。市川さんの宗教観が生かされてるのかなと思います。神さまというのが市川さんにおありだったのかな、他の作家になかなかない視点ですね」 

鈴木「シリーズ化されて、モモ子さんは業界から足を洗って芸者になって、最後は老人ホームで働いてますね」

竹下「市川さんは“どんどん金が貯まる一方でどんどん孤独になっていく女だ”とおっしゃってたんですが、卒都婆小町のようでしたね。それはそれで私にとっていつも新しい出会いでした。佐藤慶さんはまた別の怪しい役で信州で会ったり、モモ子チームみたいになっていきましたね。(刑事役の)蟹江さんはモモ子が事件を起こす所轄にいつもいて便利な(笑)。最初はモモ子も反抗的だったんですが、だんだん旧友と再会するみたいになっていって、蟹江さんもあのシリーズの間にお嬢さんが生まれたって話を合間にしてくださいました」

鈴木「堀川さんの郷里の伊香保温泉で温泉芸者になりましたね」

竹下「あの撮影のときは第1子が生まれた直後で、乳飲み子を抱えて行って、マスコミから隠すようにして。あの回の入浴シーンのおっぱいは立派でした(笑)」

堀川「ぼくとしては1作目のモモ子は傍観者で、そのままにしたかったんだけど、シリーズでヒロインになっちゃうと…。1作目でもしヒロインなら佐藤慶さんを悲劇から救うってなるだろうけど、語り部だから傍観できた。2作目以降はモモ子がヒロインで、いい人になってしまう。タイトルが『聖母モモ子の受難』とか、聖母って言っちゃって。脚本集でも『聖母モモ子の夢物語』。私は心外でメルヘンにしないでよ、もっとシビアな話にしたいって市川さんにも言ったんだけど、実際にはシビアにならない。結局モモ子を画面で見てると愉しくて、そっちに引きずられた。女寅さんと言われましたが、それはありがたいけど、ぼくは女座頭市で行きたかったんですね」

工藤「(1作目を見て)市川さんはシリアスな面の才能も持っていらっしゃいましたね。怖いラストですからね。さりげなく書いちゃう、違う一面を見ました」 

竹下「一視聴者として『傷だらけの天使』(1974)も好きでしたが、『淋しいのはお前だけじゃない』(1982)も見てました。役者さんが適材適所で。低視聴率だったんですよね、一郎(高橋一郎)さんの演出で。低視聴率をむしろプライドにしておもねない」

堀川山田太一さんが素晴らしい作品なので、低視聴率を気にしないで頑張ってくださいと書いてました。

 ぼくは『面影橋 夢いちりん』(1988)が好きでした。大した話でないのにうまく引っ張ってましたね。最後は主人公は青木ヶ原に消えていって終わり。気持ちの悪い終わり方でした」

 

 市川森一を語るエネルギーに圧倒される2時間だった。 

聖母モモ子の夢物語

聖母モモ子の夢物語