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切通理作 トークショー “日本の怪獣映画 本多猪四郎から現代・未来へ ” レポート(3)

 『美女と液体人間』(1958)や『ガス人間第一号』(1960)のような変身人間物では、液体人間はほぼゴジラと同じ。『ゴジラ』(1954)の発想のもととなったのは『原子怪獣現わる』(1954)と当時起こった第五福竜丸事件で、『ゴジラ』も最初は被曝した船が戻ってくるところから始まっていて。でも本多(本多猪四郎)監督は難色を示して、かえってリアリティがない、不謹慎でもあるし逆に冷めちゃうところがあると。直接的でなくて、核実験の影響じゃないか、と志村喬が言う。特定しない形で匂わせるというのも本多さんのやり方だったと思って。

 初代『ゴジラ』には見ている人が妄想を抱く。平田昭彦の博士が、顔に傷を負っている。戦争で受けたと台詞にあるけど、戦争って何だろう。徴兵されてないんじゃないか、原水爆を開発していて被曝したんじゃないかとか、設定にないのに言う人がいる。自分の本でも、何でそれを書かないんですかとか言われたんですが(笑)。香山滋の原作には、その傷は山で怪我をしたと書いてある(一同笑)。ただ本多さんが村田武雄さんと脚色したときに、戦争にしたほうがいいと思ったんでしょうけど、具体的なことは何も出てこない。ただその怪我もあって、それで恋人と距離を置くようになったとか、見る人の想像をかき立てる。

ゴジラ

ゴジラ

  • 宝田 明
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 『液体人間』は第五福竜丸を思わせる漁船が被曝して戻ってくるところから始まるんですが、船員の人が液体人間になってる。もう何年か経ってて生々しさが薄れた。そっくりなシチュエーションのほうが思い出してもらえるということだと思います。液体人間は人間だった記憶が残存していて、昔の恋人に会いに来たり。いまの言葉ではトンデモ科学かもしれないですけど、ナメクジが瞬間移動したという説があって、川の向こうに同じナメクジがいたとか。そこで(人間が)液体や気体になって移動するという発想になっていく。

 本多さんの最後の作品が『メカゴジラの逆襲』(1975)で、1984年にゴジラが復活するんですけれども、それは本多さんの下で助監督をやっていた橋本幸治さんが監督です。ただ1980年前後に、本多さんが新しいゴジラのアイディアをメモに残してたんです。本多猪四郎展を息子さんがやったときに、そのメモのページが展示してあって、ぼくはそれを見て仰天したんですね。本の中にも引用させていただいたんですが、新しいゴジラは液体人間的な発想で、瞬間移動できる。それがナメクジって書いてある。そういう原理のゴジラ。平成ゴジラを監督した金子修介さんがおっしゃってたのは、ゴジラは難しいと。ガメラはくるくる回って空を飛ぶから、話の都合で動かせる。だけどゴジラは上陸したら歩く、何時何分はどこにいるっていうのを描かなきゃいかんと。でも瞬間移動なら場所の制約もなくなる。本多さんのメモには、ゴジラが瞬間移動で冷戦下の紛争地に出てくる。いままでのゴジラには全くないもの。本多さんは新しいゴジラはやらないですか?と訊かれると、残酷な質問だったかもしれないけど、キャラクター化したゴジラでなくてSFとしてならやってみたいと。それはメモとして残されてました。基本として核の恐怖はなくなっていない。ただわれわれが思ってるゴジラではなくて、場所の制限を取っ払っていろいろな場所にゴジラが現れるとすると飛躍的に舞台もテーマも広がる。もうひとつ、ゴジラが電磁波を操っていて、近くへ行くことができない。電波を攪乱してミサイルをも操って世界中に投下させるとか、そんなことが書いてあったんですよ。

 身長50メートルは昭和29年にはインパクトがあったけど、新宿のTOHOシネマズのゴジラを見れば判るように、あの大きさでは大きく見えない。ただ昭和29年のはこの世界全体をゴジラが覆うくらいだったと思います。ゴジラが東京を制圧したのは、昭和29年から『シン・ゴジラ』(2016)まではなかったように思います。『ゴジラの逆襲』(1955)は大阪、『空の大怪獣ラドン』(1956)は福岡とご当地を壊すようになっていったというのもあるんですが、辺り一面焼け野原というのは初代ゴジラを除くとゴジラ映画にはあんまり出てこない。『シン・ゴジラ』では力が発動して、あらゆるものを破壊するクライマックスがあって興奮しましたけど、短い。会議室が面白いみたいなところがあって体験していく大人の映画という感じでしたけど、制圧されて出口なしみたいなのはいまだに初代ゴジラを超えているものはないんじゃないかと思っているんですね。本多さんの発想では通信機器やハイテク技術を逆用してゴジラが君臨するとなってて、これはなるほどと思ったんですよ。ただちょっと収拾つかないかなとも思いました。(つづく)