私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

富野由悠季監督 トークショー “戦後アニメーションは何を描いてきたか” レポート(3)

f:id:namerukarada:20211012030951j:plain

 終戦記念日じゃない。敗戦記念日なんですよ。ただ敗戦じゃ記念日にならねえよ。こらえるべきところを逃げて逃げてやってきたところで、安倍政権が生まれる。

 野党も知的であるべきなのに派閥抗争をやる。日本の野党は抗争にもなってない。ただの烏合の衆で、国会議事堂の中に入れる人びとってレベルに陥ってる。メディアが正すってこともできなくて、みなさんの世代はそれに飼い慣らされてる。東大や京大に入れるインテリが、何であんな野党しかつくれないのか。どうして与党を倒せないのか。世界的にそういう兆候があって、EUも烏合の衆そのものになっている。

 

 ほんとに差別されてたんだなってのを、いま思います(一同笑)。税務署に青色申告に行って、職業の説明をしても理解してもらえない。お前いったい何よって、4〜5年つづきましたよ。江東区でやって慣れてきて、今度は埼玉県行ったらアニメ村が近くてよかった。考えてみたら差別だったんだね(一同笑)。

 日本の映画界は貧しすぎて、1950〜60年代に戦争物もあったんですが見にくいものしかない。また軍隊を悪者にすれば気が済むという簡単な思想性で組まれていて、戦争を描いている映画とは言えない。それ以上のものを求めても、当時才能がそれほどいなかったから無理だよねってことですね。黒澤明あたりが一等賞というのは貧しくて、後続部隊がいなかった。『七人の侍』(1954)は見やすい映画ですが、見事なものは『七人の侍』を持ってこないとないというのは貧しい。黒澤明は巨匠ではありますが万能ではありませんし、偏った監督だったとぼくは思っています。 

 ぼくは次の方向性を見つけようと思って、死ぬまでのもう何年かはやらせてもらおうと思ってる。こういう方向性があるんじゃないかって仕掛けてくようにして、喋ってるだけじゃ事態は動かないよって。かつて言論で食っていける時代もあったけど、言論は死語かもしれない。違う方向性への胎動が起きているから、みなさんがたが旗を上げたら、ぼくはそれについていく。年寄りから見ると悔しいことで、若者に従うのかと。ただその若者たちが高貴であってくれれば、優れた輝きを持っていれば、どんなぼろを着ていても従う。その高貴さは身分で、品格ですし、人の振る舞いとしてあるべきじゃないか。

 

 発言する場所を手に入れないと、犬の遠吠えですよ。わが主張を判ってくれというのが先ではいけない。ガンダムの仕事はゲリラ戦だったけど、ガンダムはアニメというバリアがあるからよくて、バリアがないと殺されるよ(笑)。小池百合子がやってみせるというようなリアリズムは怖いことで、勘違いしてもらっては困る。

 公の問題があって、現実は細分化しているように見えても幻想でしかないから。パブリック、公的に広がるものでなくてはいけない。リアルに向かって発言するときは、優しく丁寧に判りやすく(一同笑)。

 次の世代に伝えられる言葉遣いができなかったわれわれの世代っていう問題は、大きい。戦後の日本のインテリゲンチャの無残さ、昭和の軍国主義、大正のリベラル、明治の一等国幻想、その前は江戸時代です。知性はこの激変に耐えられなくて、言葉遣いを発明してこられなかったという無残さもあって。敗戦も正統的に見つめられなかった。国家は軍隊があるべきなんですよ。きのうまでの経験がひどかったから、平和憲法で行きましょうよって職業軍人もOKした。高貴な人間は堪え忍んで、敗戦したけれど軍隊はいるんだよって、高貴なる義務を発動しなきゃいけなかったんじゃないか。アメリカのデモクラシーが作動したかと言えば、トランプ大統領でしょ。知的活動を正確に見ていく言葉遣いを発明しなくちゃいけないんじゃないか。

 

 ネット環境や映像の提供環境は、われわれの感度を麻痺させる方向に進んでる。映像を見すぎて、なまってくだけ。知的行為というものを再発見して育てていくには…。

 自分の味方になってくれる人の拍手なんか絶対に信じない(一同笑)。ぼくが射程に置いてるのはその向こう、地球の裏側。そういう言葉遣い、表現の仕方を覚えたい。ヒット作を手に入れられなくなったとき、そう思いました。エンタテインメントって簡単なものじゃなくて、ヒット作をつくるというのは稀有な才能が必要だって、そこにぶつかりました。

 きょう、かなり気が通ったという気分があって、体がらくになったというところがあります。当たり前ですが、死ぬまで頑張るぞという言葉をこういう場で手に入れさせていただきました。ありがとうございました(拍手)。

 最後に富野監督は「押井(押井守)くんのほうがページ多いんだよ」と言って「数えたんですか」と突っ込まれて笑わせていた。

 トークが終わると早々と(颯爽と)去っていかれた。