私の中の見えない炎

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黒沢清 × 篠崎誠 トークショー レポート・『世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌』(3)

【過去の原作つき作品 (3)】

黒沢「キャスティング的にも、もしその(原作通りの)構成でつくったら、重要そうに出てくるけど途中でどうでもよくなるって人に誰をキャスティングすればいいのか。一流の人だと見ている人は拍子抜けで、無名の人だとそりゃそうだよねってなって、なかなか難しい。

 『予兆』(2017)では、東出(東出昌大)さんが演じるおそろしい役は、ずばり宇宙人ですね。最初に高橋洋のプロットでは、途中で乗り代わって、とりついてる宇宙生物が別の奴に乗り代わる。長い物語で、キャスティングはどうするの? 同じキャラですよっていうけど、キャストが明らかに違うから。東出さんが女装するわけにいかないし。東出さんが別の女優さんに代わるのは、どうなる?って見ている観客は驚くだろうけど、えってがっかりする。文字で書かれてるのと違って、見ている人にはわずらわしく興味を削ぐことになる。そこで東出さん一本で通すことにしたんです。

 『クリーピー』(2016)は、原作でおそろしい主体が変わるのは、変えました」

 

【脚色と変更】

篠崎「長編小説を映画化するとダイジェストになりますね」

黒沢「生意気なことが言える立場ではないですが、読んでいるのはかなりの時間ですね。10時間とか、人によって違いますけど。ぼくなんか遅いので、1か月くらいかかっちゃう。映画は2時間で、人の一生、1日のできごと、300年でも2時間。そんなに多くのことはできないと思います」

篠崎ヒッチコックは短編をふくらませた方が良いと言ってますけど」

黒沢「ただ自分の好きなように変えたいというのではなくて、原作の精神は大事にしています。ここは面白い、ふくらませられるという、そういうものがあるから映画にしたいと思うんですよね。

 ある小説はどうだと依頼があって、なかなか面白い、でもここが余計だと省いて。そんなに大きく変えてないですけど、そういうプロット書いて原作者に読んでもらったら、削った部分をここだけは入れてくれと言われて、決裂したことが何度かありました。えっと思うんですけど、作者ってそういうもの。余計なところが心を込めた部分で、外されるとつらい。判らなくもないです。意地悪しようとは思ってないですね。映画化しようという目で見るといらないって思ったら、それで断られて」

篠崎加藤泰さんが『東海道四谷怪談』を脚色してて(『怪談 お岩の亡霊』〈1961〉)、「原作の精神に忠実やろ?」と。それは抽象的に感じたんですけど、鶴屋南北を読むとやろうとしていることにいちばん近いのは加藤泰かなと。目先のシーンを忠実に描けば原作通りになるわけではない。無意識に選択して、違いはあるけど自分の好きな方向に寄せたんじゃなくて、原作にそういう部分がある」 

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黒沢「ぼくもそう信じてます。この原作は厭だなって思うこともなくはない。例えばアクション娯楽小説で、無実の罪で捕まった男が脱獄して、自分を陥れた奴に復讐すると。オーソドックスだと思って読み始めると、主人公の描写が身長185cmで何か国語も喋れる。顔は彫りが深い、草刈正雄さんみたいな。それで東大受かってたけど、やめて海外行ったとか。その瞬間にばたっと…。そういう映画があってもいいし、でも自分の作品にそういう人を出したくない(一同笑)。どうしてそういうことを書くんですかね。映画だと俳優ですから何でもない刑事でもかっこよくて、普通の主婦でも美女。それは受け入れられてたんですけど、だからといって文字で書かなくてもいいのに。マンガだと絵を描かざるを得ない。小説はせっかく想像できて自分自身かなとも思えるのに、身長185cm(一同笑)」

 

【脚本執筆について (1)】

黒沢「(脚本は)近年は誰がやってもいいような書き方ができるようになったと思ってますけど、自分の脚本がどう思われてるかは判らないですね。20〜40歳までで男女どちらでもいいとか、そこまで読み手に任せるとプロデューサーも困るので、もう少し限定しなきゃと思ってますが、具体的に決めずに書いてます」

篠崎「『大いなる幻影』(1999)では(脚本に)主人公の心理的なものも書かれていて。俳優にヒントを与えるということですか」

黒沢「こんなこと書いたらどうなるかなと」 

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篠崎「『復讐 運命の訪問者』(1997)、『CURE』(1997)、『蛇の道』(1998)と怒濤の時期に、合間にテレビも撮られていて。そのころに『回路』(2001)のプロットのお手伝いをしましたけど。そのときに、悪いけどプロットもト書きも1回自分の言葉に変えないとつかめないと言われて。いまは共同脚本が多いですけど、他人の文章をそのまま生かしたりするんですか」

黒沢「申しわけないけど、全部書き直します。変えてしまうということではなくて、書き写す場合もあります。このままでいいじゃん、このままでいいと思っても書かないとダメで。同じ内容でも自分の文章にしないとしっくりこないという悪い癖がありまして。趣味なんですね。俳優にこの通りでとは言わないです。違う言い方をする俳優もいて、内容が変わらなければOKです」

篠崎「自分のリズムに変えてみるという」

黒沢「されたほうは気分よくないでしょうけど、ごめんねと。自分で書いた文章を前にして、これをどう撮る?考えないと具体的なところに進んでいかない」(つづく) 

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