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仲代達矢 トークショー レポート・『仲代達矢が語る日本映画黄金時代 完全版』(2)

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【監督たちの記憶】

仲代「いろんな役をやらせていただいて、黒澤(黒澤明)さんのに出て、成瀬巳喜男先生のい出ますと“きみ、新劇出身らしいね。黒ちゃんのときみたいな芝居しないでね”と。それで“立ってればいい、うまく編集でやるから” 。若いので動きたかったんですが、出来上がったのを見るとちゃんとなってるんですね。岡本喜八監督のところに行くと、成瀬さんのみたいじゃなくって(一同笑)。カメレオンみたいと言われましたけど。会社に専属だと、その役者に合ったシナリオを書かれる。でも全然違った道を歩んできました。黒澤作品と市川崑作品も全く違いますからね。

 日本映画のいいときに入ったので運がいいと思っておりますけど。『人間の条件』(1959)に出たときは、ほんとに殴るんですから。顔が腫れる。そんな時代でした。

 チャンバラで人を斬ると面白いですね。あの野郎、殺してやりたいなって(笑)。三船(三船敏郎)さんにはだいぶ斬られました。好きでした、『椿三十郎』(1962)とかね。あれもふたりで対決で、全然教えてくれないんですから。20日くらい稽古して。三船さんは左から抜いてぼくの心臓に入れる。双方に知らせずリハーサルなしで、台本には「文字に表せない対決」としか書いてない(一同笑)。三船さんがどう動くか判らないし、あんなに血が吹き出ると思わない。目の前真っ赤になって、いまならぶっ倒れるけどNG出すといけないと。加山(加山雄三)さんも本当に斬ったかとびっくりされていました」 

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 仲代「『切腹』(1962)は、普通は殺陣師がつくんですが、剣道で有名な人がいて、左右から来る奴を牽制する十字剣法という。それを利用させていただきました。小林正樹監督は、黒澤さんもおっしゃってましたけど、東映のは踊りみたいでと。ひとり斬るのに2太刀、10人斬るのに20太刀。それを10秒間。真剣の刀を使いました。もう時効だからいいでしょう。でもスピード感は欠きます。竹光だと相手のすれすれを行きますけど、真剣となると…。“丹波丹波哲郎)さん、気狂ってないですよね?”と訊いて、“いや、大丈夫”と(笑)。

 千葉(千葉泰樹)さんは温厚で、小林さんはもう1回もう1回とワンカットを1週間やったこともありますけど、千葉さんは“いいよ”って役者をおだてて、とてもいい監督でした」

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【俳優たちの想い出】

仲代「台本は2か月前に来ました。(『激動の昭和史 沖縄決戦』〈1972〉では)小林桂樹さんは台本を撮影所に持って行かなかったから。われわれも持って行かない。それが丹波さんは本番まで台本見てる(一同笑)。でもやがて小林さんが“東宝では台本持ってこないんだよ!” 。丹波さんは“東映じゃ台本を座布団で隠してやってるよ”って。面白い人でした。

 おれはこうやりたいと。監督にこうしろと言われても、頑として自己主張して、三船さんも勝新太郎さんも。ある俳優はきのう勉強して、仲代はこう来ると思ったと言ってて、すみませんと謝りますが、私もあなたがこう来ると思ったと言って。口争いになって(その間に)監督はスタッフは飲みに行こうと。そういう時代に育ったもので。

  “新劇の奴は理屈っぽいね”って言われて。錦之介(萬屋錦之介)さんに“錦ちゃん、映画と歌舞伎はどう違うの”って訊いて“新劇はダメだ”と言われて喧嘩に。それでもすぐ仲良くなりますよ。

 役者もいい商売ですけど、台詞覚えさえなければ(笑)。森繁(森繁久彌)さん、伴淳三郎さんは若いときからカンペ。水炊きのシーンで、キャベツの裏に台詞書いておれのだぞって。女中さんが来て、それを中に入れちゃって、おれの台詞を食ったと(一同笑)。テレビが生の時代も緊張しました。いまやってることがお客さんの家庭に入っていく。台詞忘れて口パクパクさせる方もいて、でも視聴者は“あ、うちのテレビ故障だ”って(笑)。そういう時代も経てきて、変な商売ですね」 

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【演技と声】

仲代「歌舞伎や狂言、あの人たちは腹式呼吸をやって腹から声出せと言われる。訓練しないといけない。5、6歳から練習する。新劇はいちばん早くても高校。下手すると、と言うと失礼ですが、大学出も。本当は10大から声を出して。世阿弥という有名な方が“一声、二振り、三姿”と。振りが動きで、三が姿。いまの芸能界は一姿ですね。世相とともに役者のあり方が変わっております。

 腹式呼吸は毎日やっております。私、20歳くらいでゴーゴリの「死せる魂」をやって、脇で後ろにいるだけの80歳の役。(ろれつの回らない声で)私は〜って言ってましたけど、84歳のいまはこうして喋ってます(一同笑)。オセローをやるときは低音、声で人物を表す。腹式呼吸は寝る前に100回。息を鼻で吸って口で出す。毎日やっています。

 声をどう響かせるかが難しい。甘えるのは鼻音で、役柄によって声を使い分ける。テレビではマイクが発達して、そういうことを教えなくなったようです」(つづく)