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実相寺昭雄演出『歴史はここに始まる』

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 4月に渋谷にて行われた特集上映“実相寺昭雄の光と闇”のおかげで、テレビの教養番組『歴史はここに始まる』(1975)を鑑賞することができた。

 10年以上TBSに在籍した実相寺昭雄監督は、1970年に退社。以後は映画監督のほかに、CMやコンサートの演出など多様な仕事を手がけるようになり、『歴史は』もその膨大な作品歴のひとつである。実相寺は「救世軍廃娼運動」と「本郷菊富士ホテル 大正遁走曲」の2本に登板。才気と熱意の感じられる力作であったので、備忘としてメモしておきたい。

 

 「救世軍廃娼運動」は、比較的無難であるけれども凝ったつくり。構成は岩間芳樹、レポーター役は岡村春彦が務める。岡村は映画『無常』(1970)や『哥』(1972)、『ウルトラQ・ザ・ムービー 星の伝説』(1990)、テレビ『シルバー仮面』(1972)など多数の実相寺作品に出演している。

 前半に伊藤晴雨の責め絵が登場するが、20年以上後の対談でも伊藤を映画化したいと構想を話していた(『実相寺昭雄のナメてかかれ!』〈風塵社〉)。

 基調はカラーで、再現ドラマはモノクロ。ドラマ部分では、『曼荼羅』(1971)や『哥』などで当時気に入っていたらしい桜井浩子が娼婦を演じている。救世軍運動の乱闘シーンもあり、再現ドラマのカメラが引いていくと、カラーになって岡村氏が視聴者に向かって解説する。

 警視庁と国会議事堂を映して唐突に終わるラストは、何やら意味深。 

 「本郷菊富士ホテル 大正遁走曲」は構成台本も実相寺が執筆。それだけに遊び心が横溢する快作であった。

 「救世軍」でのインタビューは山室民子大佐(当時)と東大教授のみであったけれども、「大正遁走曲」には画家の近藤善次郎、作家の近藤富江榎本滋民幸田文、映画監督の神代辰巳など多彩な面々がインタビューイーとして登場。近藤善次郎の「明治と違って大正は直線的」、近藤富江の「本郷菊富士ホテルにはただで1か月くらい逗留する者もおり、大杉栄もお金を払わず泊まった」、榎本滋民の「男性的な時代の後に女性的な時代が来る。男性的な明治の後に女性的な大正が来て、そして戦争を始める昭和初期」といった話が面白い。合間に無声映画っぽい字幕まで入る。

 再現ドラマは榎本滋民夢二戀歌』(講談社)をそのまま台詞に使っていて、実相寺作品ではテレビ『ウルトラマン』(1966)や映画『宵闇せまれば』(1969)などに出た樋浦勉、映画『あさき夢みし』(1974)やテレビ『ウルトラマンティガ』(1997)などの廣瀬昌亮らが演じる。「救世軍」と同様にモノクロでなかなか風格のある映像だが、そこへ現代のタバコが登場。すると突如カラーになってバックステージが映り、スタッフと役者が打ち合わせを始め、移動撮影用のレールまで映り込む(当時は業界ドラマが流行る前のはずだけれど…)。

 街を切り取る映像や編集のリズムはいかにも実相寺調で、筆者は最近見直した『東京幻夢』(1986)を想起した。

 

 取材した情報は多量だっただろうが、それぞれ巧みに30分枠にまとめた手腕も鮮やか。1980年代以降の実相寺は、劇映画・ドラマの演出やコンサート・オペラなど音楽関係の仕事が増えてそれらの分野のイメージが強くなるが、『歴史はここに始まる』は彼がドキュメンタリーのつくり手としても一級であることを示している。

 

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