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中島丈博 × 野上照代 トークショー レポート・『酔いどれ天使』(2)

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【『酔いどれ天使』(2)】

野上「黒澤(黒澤明)さんは三船(三船敏郎)さんに惚れ込んでいて、そんな深読みしなくても、惚れただけの話」

中島「(『酔いどれ天使』〈1948〉の最後に)最後に千石規子が骨壺を持ってて、志村喬が来て台詞を言う。そのシーンの三船に対する目線が冷たい。黒澤さんは(三船の役は)ぼくの分身みたいだって言ってたのに、意外と冷たいという」

野上「そりゃあんたのとこでやってよ」

中島「後から考えると、組合がやくざを美化してると言ってるからかな」

野上「黒澤さんはいつも志村さんの立場ですから」

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勝新太郎の想い出】

中島「勝さんとも3本くらいやりました。話せって言えば話しますけどね。『無宿』(1974)ってのと座頭市を1本書いてます。その前に『ずばり東京』って開高健(原作)のオムニバスが1本来ましたけど、流れました。

 山本薩夫監督の『座頭市牢破り』(1967)を書いて、その後に『無宿』を書けとぼくのところに(本人が)直接来て。勝プロ制作で、彼は主役とプロデューサーを兼ねてて。初対面でぼくの手を握って“ああ、この人はよいお人だ。心のあったかいよいお人だ”と。座頭市の台詞ですよ。

 京都の二条の川べりにフジタホテルってのがあって、もういまはないかな。それで1か月以上缶詰めで、しょっちゅう勝さんが差し入れでシュークリームとか甘い物をいろいろ持ってきてくれて。

 あるとき“行こう”って五番町のスッポン屋に連れて行かれて、赤ワインに混ぜたスッポンの生き血を飲まされて」

野上「飲まされてって、受け身」

中島「 “こんなの飲んじゃ、今夜眠れないですよ”って言ったんだけど。

 その次の日は東山にあった古くさい日本家屋で、谷崎(谷崎潤一郎)が好きそうな、『陰影礼賛』(中公文庫)みたいな湿り気のある。長い廊下を歩いていると、突然シャンデリアがきらきらの部屋があって。宝塚の元女優とそのお母さんっていう人がいて、レミーマルタンを飲んでた。そこで勝さんが“中島、今晩はお前は2階へ上がれ。風呂も沸いてる”と。これは断れない、仕方ないと観念して。終わって降りると付き人がいて、勝さんが付き人に“おめえたちは兄弟だ。わっはっは” 。意味判ります?」

野上「判りますよ。ろくなことしてない(一同笑)」

中島「その後またお店に行って、今度は同業者の脚本家とふたりで、きょうは自腹でって言ったら、“そんなことしたら、勝先生怒らはります”って。

 飲んでたら女ふたりがまたレミーマルタンを飲み始めて、結局それも勝さんのつけに。そりゃ勝さん、借金まみれになるよ」

野上「でもあの人、おごるの好きでしょ」

中島「あなた、勝さん嫌いでしょ」

野上「あんまり好きじゃない」

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 勝新太郎黒澤明監督『影武者』(1980)の主演に起用されたが、ふたりは決裂。その際は野上氏が動いたという。

 

中島「『影武者』のとき、トラブったでしょ」

野上「(言いたくなさそうに)間に入ったんですよ。大変でしたよ。全然違うんだから、性格が。丈博さんみたいだったらいいけど。黒澤さん、飲みに行って白い女来たら逃げるんだもん。あなたなら喜ぶでしょ(一同笑)」

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【その他の発言】

 中島氏が自身の脚本(『天国の恋』〈2013〉)を小説化した『ITSUKI 死神と呼ばれた女』(文藝春秋)が1月に発売された(宇野亜喜良のイラストもはまっている)。

 

野上「丈博さんは、いまは平成の菊池寛みたいな大作家で、「週刊文春」で連載していて。『死神と呼ばれた女』って、このタイトルはよくなくない?」

中島「最初のタイトルは“死神女、天上に達す”(笑)」

野上「(帯を読み上げ)愛憎レッドゾーン。金のある方は買ってあげてください」

担当者「お買い上げの方には、中島先生の新書のエッセイ(『シナリオ無頼』〈中公新書〉)もプレゼントします」

野上「かえって迷惑じゃない?」

 

 最後にメッセージ。

 

野上「私は、とにかく黒澤さんの才能に…。こんな監督はいません。これだけ言えれば満足です」

中島「植草(植草圭之助)さんもよかった。演劇的空間を脚本がつくっていて、『野良犬』(1949)と比べると判るんですが、それが評価されてもいいかなと思います」

 

 中島先生にサインしていただき、『真夏の薔薇』(1996)のファンですとお伝えすると「ああ昔の作品だよね」と懐かしそうだった。

 

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