私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

大林宣彦 × 犬童一心 × 手塚眞 トークショー レポート・『瞳の中の訪問者』(3)

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【映画について】

 大林監督は、自作の音楽も“學草太郎”の名義で手がけることが多く、名曲がいくつもある。

 

大林「音楽も映画も時間芸術なんです。(『瞳の中の訪問者』〈1977〉の)峰岸(峰岸徹)くんは自分でピアノ弾いてる。彼の指は少林寺拳法でこんな指なのに。ぼくは(ピアノのシーンでは)指はちゃんとやってもらう。音は後で入れるから。

 戦後、ブラームスとかショパンの映画がわっと来て、見て。うちに帰って(映画の通りに)ピアノ弾いたら違う音がする。ほとんどの映画はほんとに弾いてない。『漂流教室』(1987)では怪獣までピアノ弾いて。『さびしんぼう』(1985)では難しいところは(役者が)弾けないんで、ぼくが指だけ出して弾いてるんですが。

 映画の中でやっていたことは、やったね。でも拳銃を回す技のほうが、ピアノより難しいかもしれないね。

 楽聖映画を見ていて、映画(『別れの曲』〈1934〉)のタイトルがショパンの曲のタイトルを決めちゃった。映画は大変な文化なんです」

 

 映画評論家の故・淀川長治とも親しく、『淀川長治物語神戸篇 サイナラ』(2000)も撮っている。

 

大林淀川長治さん、あの方が『異人たちとの夏』(1988)をお仲間の野口久光さん、双葉(双葉十三郎)さんと集まって逐一頭から喋るけど、違う(一同笑)。でもなるほど、そうしたほうがいいなって。それを信用しちゃいけないけど、信用してください(一同笑)。記憶のほうが、映画の真実に近い。

 ジョン・フォードの『荒野の決闘』(1946)のラストシーンで(主人公が)クレメンタインとキスしてて、したしないで(友だちと)3回も4回も論争(一同笑)。きょうしたなと思っても、次の日しないような気がして。フォードは現場監督で(プロデューサーの)ダリル・ザナックがクビにして、ロイド・ベーコンを(代理監督として)雇ってる。観客がキスシーンはないのかと思うから、サービスで入れた。“クレメンタインはいい名前だね”ってあの台詞の後でキスするわけがない。だからあのシーンは浮いてて、観客の記憶に残らない」

犬童「『野菊の墓』みたいですね。“民さん、いい名前だ”って。

 ヘンリー・フォンダはここで急におかしくなったって、事情を知らずに最初見たとき思いましたよ」

大林「フォードがいなくなって撮ったカットもあるの。音楽とか、ザナック版はザナック版で、いいのは事実。フォード版はたるい。『駅馬車』(1939)は戦意高揚だけど、戦後は戦争が厭になって帰ってきてるんで、『荒野の決闘』は名画だけどやや退屈もする。そういう部分はザナックが削って。

 ザナックみたいなプロデューサーは、おれの3時間の映画も1時間半にしてくれるかな。黒澤(黒澤明)さんは平気でカットする。うまくいかなかったから切ったよと。見習うのは、平気でいいカットも切るところ。お客さん見てないから、惜しいと思うのはつくり手だけだからって」

犬童「大林さん、撮り始める前から見た映画のこと話してたんですか」

大林尾道に9館、映画館があって、2、3本立てで。朝の大会、レイトショーもあって、1か月に25本くらい見て。1960年代初めまで、日本で見られるものはほとんど見てますね。

 (同時上映の)『無法松の一生』(1943)は1947年に見たとき、父の大学ノートに頭からばっと書いた。翌日(映画館に)持ってったら、カット割りも台詞もぴったり書いてあって、それぐらい記憶していた」

犬童「淀川さんのラジオ番組で、早川雪の『チート』(1915)を聴いて、見てないけど見た感じになって。微に入り細にわたって話す。『駅馬車』も全部話して、テレビで本物見たら、淀川さんのほうが面白い。つくってるんですね。自分でリメイクしていて、批評にもなってる。グリフィスの『散り行く花』(1919)はここでアップになるんですねと。ストーリーの話しかしていないのに。アップって言うから、アップにならなきゃいけないって思う。ディテールを言うところは批評になってる。ここは映画ですよって、言わないけど言われてるのが判る。ほんとの『駅馬車』は、淀川さんが言ってるほどアップになってない(笑)。ただ『荒野の決闘』は本物のほうがよかったんですよ。

 きょう思ったのは、大林さんは小さいころから人に話すっていうのはつくる訓練だったのかなって」

 

 大林監督は、ガンで余命半年の宣告を受けていたという。現在は新作『花筐』が待機中。『瞳の中の訪問者』にも出演して大林作品の常連だった峰岸徹は、2008年に肺ガンで逝去。

 

大林「余命半年って言われたけど、医学の進歩で余命未定になっちゃった。この薬がつくられたのは、たった3年前。峰岸くんは間に合わなかった。そんなところに人の生き死にがある。病気はまだいいけど、戦争になったら殺されてしまうからね」

 

 この他にトランプ大統領のことや勝新太郎のCM撮影時のエピソードなど大林監督のトークはとめどなくつづき、延々喋りつづけるのに呆れながらも堪能した。 

大林宣彦 (フィルムメーカーズ20)

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  • 発売日: 2019/07/19
  • メディア: 単行本