私の中の見えない炎

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大林宣彦 × 犬童一心 × 手塚眞 トークショー レポート・『瞳の中の訪問者』(2)

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【『瞳の中の訪問者』(2) 】

犬童「船でふたりで話すシーンから山荘に行って殺した女と同じことをさせるシーンとか、峰岸(峰岸徹)さんが同じ女を2度殺すってつくりにも感動したし。『HOUSE』(1977)は大林さんの中で歯止めがあった気がして。戦争が背景にあるので、叙事詩的というか戦争という事実があって、叙情・情感が盛り上がる。バラバラの女の子に南田洋子が戦争を教えていたというか。でも『瞳の中の訪問者』(1977)には歯止めがない」

大林「ないね(笑)」

犬童「不動の事実じゃなくて、叙情がとめどなくあふれてくる。それがものすごく面白くて、感動的。個人的な映画だなと」

大林「結局これは大林映画(笑)。嫌いな人は大林宣彦が嫌いだと。

 (『火の鳥』〈1978〉で)市川崑さんはマンガにしちゃったね。その市川さんので反省すればいいのに、そこで大林と石上三登志という手塚(手塚治虫)さんを知り尽くしたふたりが…」

犬童「最高に危険なチームでしたね(笑)」

大林「いま見ると失敗だけど、邪気のない失敗。いちばんあこがれるのはチャーミングな失敗作。黒澤(黒澤明)さんの『どですかでん』(1970)、いいでしょ」

 そこで、子息の手塚眞監督が登壇。封切りでご覧になったという。

 

手塚眞「きょう40年ぶりくらいに拝見しまして、失敗作に見えないです。当時より全然愉しめました。犬童さんおっしゃったように、いかに映画の中の虚構を愉しむかという。

 すごく意外だったのは、手塚治虫映画になってること。ちゃんと『ブラック・ジャック』(秋田書店)になってる」

大林「それを言ってほしかった(拍手)」

手塚眞「40年かかりました(笑)。あまりにも手塚治虫になりすぎていて、手塚くささも大林くささもある。若干くさみが強いけど手塚治虫論、日本マンガ論になっていて、見事にやっていらっしゃる」

 

 クライマックスの湖の場面は、人工的でいかにも大林監督らしい。

 

手塚眞「昔は東宝のプールかと思いましたけど」

大林「あれは箱根のプール(一同笑)。温水プールを借りて撮った。あれは嘘っぽくていい(笑)」

手塚眞「手塚マンガは、アップになると背景がなくなって模様になったりするから(実写は)難しい。

 宍戸錠さんも素晴らしい。いい芝居でしたね」

大林「日活の無国籍映画っぽくしたくて、錠さんだろうと。いいでしょ。原田芳雄もやりたがってた」

犬童ピノコもよかったですよ」

大林「ああいう少女は難しい。あの声は木下恵介さん」

犬童「木下桂子さんです(一同笑)。恵介さんでもできるかな(笑)」

大林「木下さんとハニー・レーンが『さびしんぼう』(1985)の(ヒロイン)候補で。ハニー・レーンもぴちぴちしたかわいい少女で、いつかは映画撮ろうって言ってて。でも月日が経って、止めて八百屋の奥さんになってて」

 

 石上三登志が医師役で、自著を持って出て来るシーンがある。

 

大林「ほんとは、石上さんの医者は手塚さんに出ていただく予定でした」

手塚眞「(連載が)7、8誌あって、地獄のような時期でした」

大林片平なぎさは新人で、難しい役だったけどいいでしょ。彼女はほんとに峰岸くんに惚れ込んでた。峰岸くんに会うのが愉しみで、いるだけであっとなった」

手塚眞「原作だと殺人犯だけど、峰岸さんはもうひとりのブラック・ジャックみたいでしたね」

大林片平なぎさは、2年後くらいに他の作品で再会したら、峰岸くんはあくびしてたりで幻滅(一同笑)。

 ぼくも、男優とは戦友で、女優さんとは恋愛関係。それでぼくはかけ持ちは厭なのね。きのう門脇麦ちゃんの舞台を見てて、おれの知らない娘がいた。(撮影期間の)2か月、役になりきってたのに、きのうはおれ、失恋しちゃった(笑)」

手塚眞「他の監督に演出されると、とられたような気になりますか」

大林「そういうのないな。でも(小林聡美主演の)『かもめ食堂』(2005)見ると、ああ女性が監督するとこうなる。ぼくに見せたことのない貌になる。女優さんも、監督が男だと男向けの芝居になる。女だと違うね。

 ブラック・ジャックの哀しさってマンガの哀しさ。きょうの阪妻さんにも映画の哀しさがある。かりそめの姿で人の記憶に残っていくという哀しさが出ると、いい映画やいいマンガになる」

手塚眞ブラック・ジャックは男にももてる。大森(大森一樹)さんもやりたがってました」

大林「『ブラック・ジャック』からかな。あのころの手塚さん、ほんとにすごいよね。『ブッダ』(潮ビジュアル文庫)は最後にヒョウタンツギ食べて死ぬ。手塚さんが自分自身の最期を予告したような、表現者の“断念”まである素晴らしいマンガなんですけど、最後はきのこのヒョウタンツギ食べて死ぬ。マンガが嫌いな方はお判りにならないでしょうという吹き出しがあって。お嫌いな方は、『瞳の中』もダメでしょう。あのヒョウタンツギのシーンは手塚さんに喜んでもらえるかと思ったんだけど、難しいね(一同笑)」

手塚眞「墓参りに行ったら、ちゃんと面白かったと言っときます。大林さんが(黒澤監督の)『夢』(1990)のメイキング撮られて、『八月の狂詩曲』(1991)のメイキングをぼく撮って。そのとき黒澤さんに手塚のマンガのどれが撮りたいですかって訊いたら、ないと。手塚くんのような才能がマンガに行ったことが日本映画をダメにしたと」

大林宮崎駿さんにも同じこと言ったらしいね。アニメじゃなくて実写映画も撮ってくれと言われて、宮崎さん怒ったと(笑)」(つづく

 

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