読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

黒沢清監督 トークショー レポート・『ヒッチコック/トリュフォー』

f:id:namerukarada:20161225012204j:plain

 アルフレッド・ヒッチコックフランソワ・トリュフォーが迫ったロングインタビュー『定本 映画術』(晶文社)は、映画技法の教科書?として知られる古典的名著である。映画のつくり手やマニアはみな読んでいると言われる著作だが、そのヒッチコックトリュフォーの対話の音声テープを使って、いまの現役監督のインタビューも交えてヒッチコックの演出を検証するドキュメンタリー『ヒッチコックトリュフォー』(2016)が制作された。

 マーティン・スコセッシデヴィッド・フィンチャーピーター・ボグダノヴィッチ監督などとともに、日本からは黒沢清監督が出演。『ヒッチコックトリュフォー』の公開に合わせて、新宿にて黒沢氏のトークショーが行われた。聞き手はアンスティチュ・フランセ日本の坂本安美氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

黒沢「ぼくもこの映画が出来あがったときに見て、ほんとに面白いと思いました。有名な数々のシーンを分析しているだけでわくわくするんですが、トリュフォーも描かれていて、ふたりの関係も描かれ、一見関係ないように思われる現役の監督たちが熱い言葉を述べている。映画全体にまで思いをはせさせてくれるような作品になっていると思いました。片隅にぼくもちらっと出てきて、大変光栄です」

 

 坂本氏は本作の制作段階から参画していて、ケント・ジョーンズ監督に「いっしょにこの旅に出よう」とかっこいい言葉で協力を求められたという。ジョーンズ監督は「キヨシには絶対出てほしい」と坂本氏に要請した。

 

黒沢「このインタビューの依頼は、坂本安美さんから来たんです。監督のケント・ジョーンズさんを、知ってはいたんです。でも何を喋ればいいんだと。本に関して喋るのか、ヒッチコックに関してなのか、混乱して。慌てて本棚の『映画術』を読み返そうと。どのタイミングで読もう? 寝る前に読もうとしたら、あれでかい本でね(一同笑)。電車の中で読むのも…。昔どうやって読んでたんだろうと」

 

 黒沢氏がインタビュー前に唯一見返したヒッチコック作品が、『汚名』(1946)。イングリッド・バーグマン主演のスパイ劇で、バーグマンとケイリー・グラントの恋愛が前面に出ている。

 

黒沢「(ヒッチコック作品を)全部見直す時間はなくて、何か1本見とかなきゃと。いくつかのもの、『めまい』(1958)とか『サイコ』(1960)とかは何となく判った気になってたけど、『汚名』に関してはだいぶ昔に見て痛く感動したんですけど細部を忘れていて、これがいいかなと。あんまり深い意味はなく、忘れてたから見直しとこうと」

 

 『汚名』には天使的なショットと悪魔的なショットがあると、黒沢氏は指摘する。

 

黒沢「こりゃすごいやと思って(『ヒッチコックトリュフォー』では)主に『汚名』についてなんだかんだ言ってて。

 鍵をやりとりしてるシーンは天使っぽい。でもパーティーの席で(画面が)ぐわーっと鍵まで行く。これはほんとに強烈な悪魔的なショットで、見ちゃいけないものを見てしまったように、胸がざわつく。それがこの映画の最後に入っているのには、感動しました」

 

 『汚名』の鍵のシーンは『ヒッチコックトリュフォー』のラストに流れる。

 

黒沢「(映画は)つくってるこっちは、よく判らない。見てる人が発見して。自由自在に操れるものではないですが、でも何らかの意図をしないと、(『汚名』の)あんなカットが撮れるわけないと。

 とりあえず、ああいうアメリカの娯楽映画をつくるときには、物語を語る。でも普通の感覚で語るというのから、大きく逸脱してる。混乱してるかというと、そんなことはない。ただあんな語られ方をされてしまうと、物語の外側に語られていないものが存在しているような気がしてしまう。

 エモーションという言葉は都合良く使われて、映画はエモーションだと。これは、映画は映画だと言ってるみたいな(一同笑)。観客にある感情を引き起こすんですが、鍵のカットは何の感情なのかよく判らない。イングリッド・バーグマンの感情とは少しずれている。わき起こるものは、何なんでしょうね」

汚名 [DVD]

汚名 [DVD]

 

黒沢「(ヒッチコックは)誰でも真似ができるかというと、これがね、真似できないんですね(笑)。映画の文法で、こうやれば捉えられると思う瞬間もある。それが映画の原理だと思うけど、『汚名』の鍵のカットはこうやればエモーションが生まれるかと思うと落とし穴で、他の映画で同じことをやると何それ?となる。

 男女がいて、微妙にというか愛し合っていて、愛しているから疑念を抱く。そういう関係性はよく判るし、アメリカの娯楽映画の基本として小説や演劇で培ってきたものでオーソドックスですけど、それを軸にどういう映像がありうるか。

 ヒッチコックの真似は誰にもできないんですけど、映画にはこんな力があるんだと。映画史上の天才がつくった作品を見ると、映画にこんな力があると再確認できて、勇気を与えられますね」

 

【関連記事】黒沢清監督 トークショー レポート・『フック』(1)

f:id:namerukarada:20161225012454j:plain