私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

辻真先 × 手塚るみ子 トークショー “手塚治虫のSF作品”レポート(1)

f:id:namerukarada:20161023203545j:plain

 10月、東京都江東区の森下文化センターにて連続3回の講座「SFマンガの魅力」が開催されている。

 1回目は「手塚治虫のSF作品」と題して、脚本家の辻真先氏、プランニングプロデューサーの手塚るみ子氏が登壇。聞き手は、マンガ研究家の稲垣高広氏、グラフィックデザイナーの川口貴弘氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

手塚治虫の初期SF作品】

 辻氏はテレビ『鉄腕アトム』(1963)や『サイボーグ009』(1966)、映画『空飛ぶゆうれい船』(1969)など1500本以上のアニメ・特撮の脚本を執筆した巨匠。近年も新しいマンガ・アニメをこまめにチェックしていることをツイッターで表明している。

 

「大学まで名古屋だったんですが、名古屋は丸焼け。焼夷弾を日本一喰らってます。綺麗さっぱり、本屋もなくなって、手塚マンガに接するのも遅れてしまって。昭和25、6年になると家が建ってきて、昭和28年に名古屋テレビ塔が東京タワーより先に立ちました。早いから小さいですけど。

 中学2年に戦争が終わって、それで中学5年を終えて旧制高校に入って、大学です」

 

 辻氏は、手塚治虫の初期SF『メトロポリス』や『来るべき世界』の洗礼を受けた世代。

 

「ついさっきまで女の子と口利いただけで殴られて、口切れて。でも突然、話していい、手をつないでフォークダンスもしていいと。物質的に豊かになってきましたけど、まだ脳みそをかき回されてる感じ。それで『メトロポリス』に感心して。『メトロポリス』のミッチィは、男が女になる。あれには萌えました(一同笑)。

 (戦時中に)青酸カリ配られて、戦争が終わってアメリカが来たらそれ飲んで死ねと。(戦後に)ふるえながら告る。ぼくといっしょに歩いてください、キスしてくださいなんて言えない。もしダメなら青酸カリ飲んで死ぬ(笑)。そんな状態だからミッチーに萌えましたね。手塚先生は、男っぽいもの女っぽいのと、『リボンの騎士』と『鉄腕アトム』を描いてて。両方の魅力がミッチィに昇華されたというか」

メトロポリス

メトロポリス

 

 辻「『来るべき世界』は感心どころでなく…。どーんと2ページ見開き、カットバックに音響効果。フウムーンというエイリアンが来て、角突き合っていた両国のボスが肩を組んで、平和が来たと怒鳴る。その下がピアノを弾いている人。音響効果付きのクライマックスです。大変立体的で、耳に聞こえましたよ。

 戦前に軍事科学冒険小説を読んでましたけど、高い視点を持つ巨視的なクリエイターは海野十三さんの『地球要塞』くらい。手塚先生、それを読んでたなって思うのは(『来るべき世界』の)戦艦が宙づりになってぼきっと折れる場面ですね。

 すごいと思うのは、学者や国連の人、政治家など雲の上の人やエイリアンが出てくれば、長屋のがらっぱち、熊さん八さんみたいなのも。いろんな意味で大作ですね。たった2冊で収まってる。情報量は大変なものです」

 

 ラストでは、宇宙人の襲来という外圧によって二大国家の和解が実現する。

 

「手塚先生は敗戦によって気楽にSFを描けるようになった。アメリカの外圧が来て、マンガが描けるようになったということがあると思います。

 いいものは、子どものころ見ても、10代20代で読んでも発見がある。手塚先生はお亡くなりになってしまいましたけど、このSF三部作は代表作として今後も輝くと思います」 

来るべき世界 1

来るべき世界 1

 

 手塚るみ子氏は、手塚治虫の長女で、手塚プロダクション取締役。手塚作品の多彩なプロデュース活動を展開している。

 

るみ子「最初に読んだのは子どものころ。実感がなくて。物語として読めなくて。戦争だとか、父の思いがどこにあらわれているかとか。

 『メトロポリス』の原作は男の子だけの印象で、アニメ版(『メトロポリス』〈2001〉)では(りんたろう)監督のセンスが素晴らしくて、海外のテレビでも放送されて。ラストも、何度見ても涙がこぼれる」

メトロポリス [Blu-ray]

メトロポリス [Blu-ray]

 

【『新世界ルルー』と『鉄腕アトム』(1)】

 辻氏は『新世界ルルー』のテレビ化を構想し、自身の演出によってNHKドラマ『ふしぎな少年』(1961)を実現させた。いまでは珍しくないマンガ実写化の草分けであろう。

 

「『新世界ルルー』は、初版本を古本屋で買ったと思います。ネーミングが可笑しいですね、コンチック・ショオとか。

 四次元の世界に、初めて少年が連れていかれる。この場面を見て、スロー撮影という感じがした。

 本を10冊くらい積んで(NHKの)部長に四次元というのがあってと話すけど、やっぱりお判りにならない。ジャン・コクトーの『オルフェ』(1951)がちょうどテレビでやってて、異次元に行く場面で、行く直前に郵便配達がポストに郵便を入れる。死の世界に入って戻ってきたら、郵便がポストに落ちる音がする。あれが、時間がとまるってことですと説明したら、ジャン・コクトーがやってるならいいだろうと(一同笑)。説明するのに苦労する。

 『のらくろ上等兵』だとコマの横に①②③と(ナンバーが)ある。それがないと、どうやって読むんだ、こんなもの判るかと」(つづく)

 

【関連記事】手塚るみ子 トークショー レポート・手塚治虫ガールズ&ラブリー 版画展