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三谷幸喜 インタビュー(2000)・『合い言葉は勇気』(1)

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 ゴミ処理会社の産業廃棄に苦しめられる村。村役場の青年(香取慎吾)は、奇妙な成り行きによって売れない俳優(役所広司)を弁護士に仕立てて処理会社に挑戦する。

 大河ドラマ真田丸』(2016)も好調な脚本家・三谷幸喜が、かつて手がけた『合い言葉は勇気』(2000)。視聴率は低迷したが、笑いを交えて波瀾万丈なストーリーがつづられる意欲作である。

 以下に引用するのは放送中に「TeLePAL」(2000年7月29日号 No.16)に掲載されたインタビューで、放送中だった『合い言葉は勇気』について自ら解説している(三谷氏の発言に絞って引用。用字・用語はできる限り統一した)。

 

 とりあえず『古畑』(『古畑任三郎』シリーズ)は毎回視聴率を取れるんで、それ以外のドラマで実験的なことをやらせてもらえる。脚本家として、いいポジションにいることはいるんです。それにずっと舞台をやっていて、テレビは自分の本業ではないという思いもどっかにある。だからテレビドラマ1本でやっているシナリオライターの方が、失敗を恐れてできないような挑戦が僕にはできるし、できるからにはやらなくちゃという、使命感みたいなものもあったんです

 

(最近作では自分のやりたいものが作れないと感じており)こんな状態で書き続けていたら、そのうち仕事も来なくなるんじゃないか。それに『古畑』以外では数字を取れないわりには、ヒットメーカーって言われたりするのも、なんかすごく申し訳なくて。北川悦吏子さんと僕の名前は、絶対並べるべきじゃないんですよ。すごい差があるんです、その間には。

 まぁ、何かっていうと、やめようと思うほうなんですよ(笑)。劇団はそれで本当にやめちゃいましたし、2年ぐらい前、『今夜、宇宙の片隅で』をやった辺りで、何回目かの “ドラマはやめよう” という節目が巡って来たんです。すでに話が進んでいた『古畑』パート3を最後に、ちょっとテレビの世界から離れようって思ったんですよ

 

(波多野健プロデューサーから連ドラの依頼があり)かつて『やっぱり猫が好き』で、僕をテレビ界に引っぱってくださった方の話を断るわけにはいかない。ご恩返しの意味も込めて、じゃあもう1本だけ書いてみよう。そしてもしかしたらこれが、最後の連ドラになるかもしれないので、とにかく今までのドラマでやりたくてできなかったことを、全部つぎこもうと思ったんです

 

 “来週どうなるんだろう” という期待感を1週間持続させてこそ、連続ドラマだと思うんです。実際僕が学生のころに見ていた『黄金の日日』や『草燃える』といった大河ドラマは、ホンットに毎週楽しみでしょうがなかった。ああいうものを自分でも作りたくて、今回初めて、11話までのストーリーや細かいシチュエーションを決めた上で書くという手法を取ったんです  

NHKの人形劇『新八犬伝』をベースに)そこへ今まで僕が感動したり、ワクワクした要素を盛り込んだんです。窮地に立った村に正義のヒーローがやってくる展開は、映画『七人の侍』『サボテン・ブラザーズ』『バグズ・ライフ』から。『サボテン〜』と『バグズ〜』にはヒーローがニセモノだというヒネリが利いています。しかもそれが最後には本物以上の力を持つというのが、なんか好きなんですね。

 それから裁判モノ。映画『評決』のポール・ニューマン扮するダメ弁護士が、絶対不利だと言われた裁判に勝つ、あの感動を盛り込みたかったんです。それらを一旦自分の中で咀嚼して、全部吐き出したら『合い言葉は勇気』が出来上がった、という感じですね

 

(暁仁太郎役の主演・役所広司さんには)今回は “暴力的な寅さんで” とお願いしました。物事を深く考えず、その場の雰囲気で言いたいことを言ってしまう。裏はあるけど、すごく浅い感じの男をやっていただきたかった。

 これは役所さんが15年前に『親戚たち』という連ドラでやっていた、雲太郎という役にもちょっと近いイメージなんです。その流れで太郎という名前をいただきましたし、暁っていう姓も、雲太郎の雲とかかっています

 

(忠志役の香取慎吾さん)本人には伝えていませんが、イメージは映画『ギルバート・グレイブ』のジョニー・デップ。富増村も実は、あの映画みたいにトウモロコシ畑が広がる、アイオワ州の片田舎を想定して書いたんです。台本を読んだ演出の河毛河毛俊作さんは “絶対日本の農村じゃない!” と、藁の塊が転がってるようなロケ地を探したそうですが、実際は田んぼだらけの農村になってました(笑)

 

 一度だけ、『SMAP × SMAP』の「古畑拓三郎」を書いたことがあるんですが、香取さんは犯人に罪をなすりつけられるペルー人役が、すごく上手だったんですよ。彼は僕の想像を超えた、台本をとことん読み込んだ人にしかできないようなリアクションをしたんです。コントなのにそこまでちゃんと演じてくれたのが、すごくうれしかった。つづく

 

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