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川北紘一とゴジラ・『ゴジラvsビオランテ』『ゴジラvsキングギドラ』『ゴジラvsデストロイア』

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 映画ゴジラvsビオランテ』(1989)が、公開から20年以上を経て評価が高い。昨年は大部の研究書『ゴジラvsビオランテ コンプリーション』(ホビージャパン)が刊行されたが、その『vsビオランテ』をはじめとするゴジラシリーズや大空のサムライ』(1976)、『ガンヘッド』(1989)といった数多の特撮作品を手がけたのが故・川北紘一特技監督だった。

 もとよりメカ好きの川北は、『地球防衛軍』(1957)を見て特撮を志す。いまは川北と言えばゴジラという印象だけれども、怪獣よりもメカへの憧憬があったらしい。そんな彼の初めて手がけたゴジラ映画が、『ゴジラvsビオランテ』。『vsビオランテ』は、公開当時にはさほどの興行成績を上げなかったものの、時の流れとともに人気が高まっていく。『コンプリーション』のほかにも、2009年の『平成ゴジラ クロニクル』(キネマ旬報社)は明らかに『vsビオランテ』に重点が置かれていた(川北のインタビューも掲載)。子どもの時分に『vsビオランテ』を見た世代が成長したのも大きいだろうが、ご多分に漏れず幼いころに見た筆者も、海中を泳ぐゴジラや、ずどどどどとダイナミックに疾走する植物怪獣・ビオランテといった才気煥発な川北特撮に魅了された。ちなみに疾走は川北が現場で思いついたのだという。

 『vsビオランテ』の次作『ゴジラvsキングギドラ』(1991)は前作を上回る大ヒット。『vsキングギドラ』は矛盾の多いストーリーが槍玉に挙がることも多いけれども、川北特撮も「失速」であるとか昔のゴジラ映画と変わりないなどと批判されている(『映画宝島 怪獣学・入門』〈JICC出版局〉)。確かに『vsビオランテ』の凝りようとは異なり、『vsキングギドラ』では怪獣が通過しただけで付近の建物や橋が大爆発するなど大味な映像が目立ち、シナリオの粗さが特撮にも波及したのかと思わせた。それでも『vsキングギドラ』はエンタテインメントとしては十分に愉しめたのだが、その後『ゴジラvsデストロイア』(1995)まで5年(5作)連続で川北はゴジラ映画の特技監督と務め、演出の粗雑さには拍車がかかりマンネリ化が進行した。

 「ゴジラ死す。」をキャッチコピーに謳った『vsデストロイア』では、クライマックスでゴジラメルトダウンを起こして溶解する。「特撮的にはもうやりつくした。あとはゴジラが死ぬくらいのことがないと駄目だろう」と川北がゴジラの死を提案したそうで(白石雅彦『平成ゴジラ大全 1984〜1995』〈双葉社〉)、本人も自身のゴジラ演出がマンネリに陥っているのを痛感していたらしい。

 ブランクを経て『ゴジラ2000ミレニアム』(1999)によりゴジラシリーズは再開されるが、特技監督鈴木健二に交代。ゴジラスーツアクターを長年担当した薩摩剣八郎の『俺は俳優だ 着グルミ役者と呼ばれて30年』(ワイズ出版)によると、川北本人は登板するつもりだったのに、馘にされたのだという。

 2002年に定年退職した川北は、自らの会社を設立。テレビ『超星艦隊セイザーX』(2005)や『Kawaii! JeNny』(2007)などの特撮を手がけ、後進の指導にも当たった。『Kawaii! JeNny』はタカラトミーのジェニーを主役にした人形劇で、メカ好きの川北らしく戦車のミニチェアがやたらリアルで笑わされた。

 2014年、アメリカ版の『GODZILLA ゴジラ』が公開。日本でもゴジラブームがわき起こり、川北は功労者として多数のトークショーに登場し、インタビューに答えていた。その年の12月、川北は急逝する。

 

 筆者が生前の川北を目にしたのは、その年の8月だった。川北の会社の主催により、かつて昭和のゴジラ映画に出演した宝田明と星由里子のトークショーが池袋にて行われ、川北も挨拶に登場した(宝田と星が出演した『モスラ対ゴジラ』〈1964〉では、川北は撮影助手だったという)。

 トーク終了後に宝田と星のサイン会があり、長蛇の列ができた。筆者は最前列の席だったのであまり並ばずに済んだのだが、さほど時間が経っていないにもかかわらず、後方のおっさんが早くしろ!と怒鳴り始めた。気まずい空気になったところで、壇上に川北が再登場。つなぎに観客の質問に答えるという。次々に質問が飛び、川北はにこやかに答え、緊張は一気に緩和した。『平成ゴジラ クロニクル』などでは撮影現場での川北がいかに怖かったかが語られていたが、その日の気づかいには感嘆。

 所用のあった筆者は、残念ながら川北の質疑応答をあまり聞けなかったのだが、ご自分のゴジラ映画でいちばん印象深いのはどれですか?との質問に『vsデストロイア』だと話していたのを覚えている。『vsデストロイア』は先述の通りゴジラの死を描いた作品で、いまの評価は概して高くない(幼いころに見た世代には人気があるが)。だが川北本人は、才気に満ちて熱く支持される『vsビオランテ』や娯楽一直線の『vsキングギドラ』よりも、『vsデストロイア』に強い思い入れがあったのだという。川北がゴジラの死を発案したという経緯ゆえでもあるだろうけれども、もしかすると最晩年の川北は、自ら描いたゴジラの死と、迫り来る自身の死を重ねていたのかもしれない。精力的にトークやインタビューをこなしつつ、死期が近いことを知っていたのではなかろうか。

 

俺みたいな奴が元気なうちは日本の特撮はまだまだ大丈夫だよ!」(川北紘一『特撮魂 東宝特撮奮戦記』〈洋泉社〉)

 

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