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長谷川和彦監督 トークショー レポート・『にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活』 (1)

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 『青春の殺人者』(1976)、『太陽を盗んだ男』(1979)という2本の名作により映画史に名を遺す長谷川和彦監督(『太陽を盗んだ男』は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009)にサントラが引用されたのでそれでご存じの方もいるだろう)。その長谷川氏が若き日に助監督として師事したのが『赤い殺意』(1964)、『復讐するは我にあり』(1979)などで知られる故・今村昌平

 12月初旬に高円寺にて、今村監督のドキュメンタリー『にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活』(1970)が上映され、長谷川監督のトークショーが行われた。聞き手はカメラマンの山崎裕氏。

 『にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活』は横須賀で「おんぼろ」というバーを経営するマダムをインタビューしながら、戦後のニュース映画が差し挟まれるという構成。長谷川氏は今村監督の『神々の深き欲望』(1968)の制作中に今村プロに入社した(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

今村昌平監督との出会い】

山崎「何かでゴジ(長谷川監督のニックネーム)さんに初めて会ったのが1968年。テキ屋のドキュメンタリーをやりたいというので、B班助手で呼ばれて。ゴジさんは東大を卒業してた?」

長谷川「中退な」

山崎「今平さんは『人間蒸発』(1967)の後、『神々』の1回目の撮影で失敗したそうで帰ってきて、それでテキ屋のドキュメンタリーの準備をやってらした」

長谷川「おれも22歳で大学に籍があるまま『神々』に入ったから、そのころ判ってたわけじゃないが、今平さんは劇映画をつくるんじゃないというところで何をつくるか模索していた。真面目は真面目なんだ、この人は。

 大学の5年で、卒論が残ってて、フットボールのキャプテンもやってて。でも当時は映画が斜陽で、邦画5社は助監督の公募をしなくなって、シナリオ雑誌を読んでたら、映画監督が夜間ゼミナールをやっていて(学費が)2万円。それも滞納してるけど。浦山桐郎のゼミは飲ましてくれそうだからやった。浦さんは思ったより真面目な人で戦後史と映画を並べて喋った後、飲み屋へ行ったら、“おまんこ”と。この人面白いなと思って、酔っぱらってからんでたら、浦さんはそれを覚えててくれて、徹夜麻雀をやってたら朝10時に呼び出し。“浦山です”と。今村プロで監督試験があるから、2時までに鳩ヶ谷の公民館に行きなさいって。まだ卒業してないって言ったら、そんなことは受かってから考えなさい、と。それで採用された。

 二次面接でいろんな審査員がいて、“きみ、飯食うのとおまんことどっちが好きか?”。そういう面接、ありか。どっちもって、もごもご言ってると、いいかと。きみ卒業してないけどいいのかって言われて、フットボール駒場でやってて、やめたら殺すといつも言ってるんで、フットボールと映画を縫えないかって言ったら、きみ入ったら1年沖縄に行ってもらうよ、駒場とどうやって縫うんだと。判りましたと言ったら、合格通知が来た。応募要項にあった給料が出たのは最初の1年だけ。あとの3年は出なかった」

 

 『人間蒸発』は、ドキュメンタリーと銘打っているが後半にどんでん返し?のある、人を喰った怪作。 

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長谷川「『人間蒸発』で今平は味を占めた。ドキュメンタリーもありだな、と。

 (やくざのドキュメンタリーは)うまくいかなかった。やくざにつっこむと、自分があぶないと思ってびびった。今平さんは(主人公の)○○さんと似てて、おいらが“○○”と呼ぶと“おう”なんて喜んでたけど。山とふたりで、いろんなものを撮ってたけど、企画は流れて」

山崎「今平さんは、テキ屋に顔を知られないスタッフをつくろうと。おれたちは忍者部隊。縁日の撮影を隠れて撮ったり。今平さんが『神々』のロケに行ってるとき(任された監督の)△△さんが真面目な人で、それでスタッフが崩壊。ゴジはそのまま『神々』へ」

 

【『神々の深き欲望』(1)】

 『神々の深き欲望』の沖縄ロケの写真がスライドで映された。晴海埠頭で出発するときの、「ゴジ!行け」と書かれた幕が映っている。

 

長谷川フットボールの後輩が(見送りに)来てくれた。いまはみな、偉くなってるな」

 

 長谷川監督は全体写真の中央付近に鎮座していて、「どうしておれ、ここに座っているのかな。おれただの制作進行だぜ」。また、役者が足りないので、「夜這い青年」の役をやれとも言われたという。(つづく

  

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