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宮崎駿監督 トークショー“トトロのふるさと基金 25年の歩みとこれから”レポート (2)

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宮崎「情勢はいつか変わると思っていたら、ほんとに変わって31号地まで来た。これは100号まで行くかな(笑)。地元に住んでる人間で管理して、いろいろな人が自分の近所の森を大事にしていく。

 17号地は、うちのすぐ近く。ぼくは半径300mで生きています。

 友人が病気になったので、いつも電車から手を振っていたら、それが習慣になってしまって、近くの人も「何ですか?」っていっしょに手を振るようになった(一同笑)。ご近所つきあいってこういうものかな」

 

 活動は平坦な道のりではなかったが、『となりのトトロ』(1988)の知名度もあって運動は広がり、特に10代以下の若い人から多くの寄付金が集まったという。

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宮崎「美談にしないでください(一同笑)。

 ぼくもタバコの吸い殻をポイポイ棄ててた人間でしたから、いまは(ゴミを)拾ってるけど、棄てたほうが多いんじゃないかな。つづけてたことを止めるのも大事で、綺麗にならないとあきらめてたらできないですね。

 体を使って草取りしたり川を綺麗にしたりすると、その土地に愛着が生まれます。そこを通ると自分の場所を通るみたいで、精神衛生上いいですね。そこの木や森と自分が結びつく。無料奉仕とかでなくて、自分が何かをもらってるんじゃないかな。

 (環境保全は)私利私欲との戦いです。

 イギリスのナショナルトラストは、第一次大戦で上流階級の青年が大量に戦死して、管理者のいなくなった土地を接収したのが始まりです。日本の土地制度だとそうはならないけど、ただ土地は個人の資産じゃなくて国土なんだというふうに変わっていくと思います。基金がいつまでも残らなくても、(土地が)みんなのものだというふうになればいいんじゃないかな。32から100になればそうなっていくと思いますね。簡単にイギリスのようにはいかないでしょうが、狭山丘陵の開発も止まってほしいと思ってます(笑)。

 寄付は破産してまでやることじゃなくて、財政状況と相談してやればいいんで、持ってる人がちょっと無理してどさっと出せばいい。1万円が尊い人もいれば、1億円が何でもない人もいる。

 イギリスのナショナルトラストみたいに会員が463万人もいると、お便り出すのも大変ですよ。会員数が増えないから停滞してると思わなくていい」

 

 運動の始まりは、1980年に早稲田大学が狭山丘陵に新キャンパス設置を発表したことであった。

 

宮崎「(現地の)写真を見ると、胸が痛くなる。ぼくはその土地へ行ったことがなかったんですけど、(運動をする人の)無念の思いが伝わってくる。ここにも早稲田の人がいると思うけど早稲田の悪口を言ってるんじゃなくて、むしろ大学があんな田舎にあっていいのかなって思うけど。

 土地は一度めちゃくちゃにすると、ほんとにめちゃくちゃになっちゃうんですね」

 

 今年に入って、森を墓地にする計画が持ち上がっている。

 

宮崎「最近、現地を見るチャンスがありまして、いい天気で、森がものすごく綺麗。これを墓地にすることはないって思いました。お墓のことを話してるうちに、私たち夫婦は散骨にって話になって、孫はひとりだけだし、前は海に散骨かって思ったけど、いまはゴミ拾いしてる川にこっそり流してくれればいいかなって」

 

 最後のほうで司会の人が、観客にメッセージを、と宮崎監督に振るが、監督の答えは「安藤さんの言われた通りです」だけ。時間が5分くらい余ってしまったので、監督は来賓として来ていた所沢市長を「市長、どうぞ!」と壇上に引っ張り上げ、市長も急遽話す羽目に(場内では笑いが起きていた)。宮崎監督は過去の発言を読むと饒舌で、『折り返し点』(岩波書店)に収録されたインタビューでは、疲労の色が濃くても「憑かれたように」話しつづけたとある。それゆえ、特にメッセージがないと言われるのはやや意外であった。

折り返し点―1997~2008

折り返し点―1997~2008

 

 宮崎監督は、『ハウルの動く城』(2004)あたりの時期からインタビューなどに答える頻度が少なくなり、旧知の渋谷陽一氏との対談『続・風の帰る場所』(ロッキングオン)やNHKプロフェッショナル 仕事の流儀』の出演などはあっても、露出は明らかに減っている。講演やシンポジウムに登場するのもほぼ皆無だけれども、今回のトトロのふるさと基金のイベントは、基金の苦衷を知るゆえに特別に出る気になったのだろうか。