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池内紀講演会 “森鴎外の『椋鳥通信』”レポート(1)

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 脚本家の山田太一氏の講演目当てで“夏の文学館 「歴史」を描く、「歴史」を語る”へ行き、池内紀氏の講演も聞いた(寝坊のため、その前の木内昇氏の講演は終わりのほうしか聞けず…)。池内氏は森鴎外『椋鳥通信』(岩波文庫)の編集(文庫版)を担当したそうで、その『椋鳥通信』について語られた。

 池内氏については、筆者は『東京ひとり散歩』(中公新書)などのエッセイを読んでおり、講演も面白く聞きました(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

 森鴎外『椋鳥通信』は全くご存じない方が多いから、厄介な素材です。『雁』(岩波文庫)は知ってるけど、『椋鳥』は知らない(一同笑)。鴎外をよくお読みになっている方でもご存じない方が多い。最初の全集には入らなくて、2度目のに入って、でも手ごろな本がなかった。何百ページもあって、たくあん石みたいに重くて凶器になる(笑)。

 ぼく自身は評価していまして、鴎外の作品が古びた中で、『椋鳥通信』は新しい。以前の講演でその話をしたら、岩波書店の方がいらして、文庫にまとめたいと言われて、それが5年くらい前。去年、文庫版の上巻が出て。連載の完結が1914年7月、それから100年の2014年に上が出たわけです、たまたま(笑)。今年2月に中、9月末に下が出る予定です。

 

 『椋鳥通信』は、海外の情報を鴎外が伝えたものです。帯に“鴎外発世界ニュース”と。「スバル」という文芸雑誌が1909年に創刊されて、そこに55回に渡って連載されました。初回は、「海外消息」というタイトル。(その時点で)鴎外は多分相談に乗っていた。3回目からは『椋鳥通信』で、明らかに鴎外の手が入って、月単位で新しいヨーロッパ情報が入ってくる。ニュースの選び方も広がって、語り口が明らかに違う。鴎外独特の乾いたユーモアもあって、漢文と砕けた和文が噛み合って、世界のニュースを鴎外の文体で表現してる。「スバル」の廃刊後も別の雑誌に続編を載せてて、鴎外のこの作品への意志は強かった。でも著者・鴎外とは書いてない。鴎外が書いているとはみんな知っていたんですが、表面には出てこない。

 

 どうして文芸誌に海外ニュースを載せていたか、当人は述べていない。「スバル」ではちょっと揉めごとがあったんです。創刊号にある歌人が歌を載せて、それが小さな扱いで、ニュースのほうが大きかった。歌人は、(発行人の)石川啄木に文句を言って、どうしてニュースが大きいんだ、逆だ、と。啄木は歌を載せたくなかったんですね。「時代閉塞の現状」を書いていて、歌人から社会批評家に移っていった時期で、情報を載せたかった。(本人は)そこまで言ってないですけど。鴎外はおそらくそれを知って、若い人がいちばん必要なのは海外のニュースだろう。それに応じて始めたんじゃないかと推測しています。

 

 海外の新聞や雑誌が船便で届いて、それをチェックしていると3か月か半年は過ぎてしまう。でも1904年にシベリア鉄道が開通し、1909年の時点では2週間で向こうの新聞が届くようになりました。

 また、イギリスのロイター、フランスのアヴァス、ドイツのヴォルフ通信という三代通信社の存在です。その3つが地球の情報を押さえてた。ここからは池内の推測ですが、鴎外はヴォルフ通信社の東京駐在員から情報をもらっていたんじゃないかな。鴎外は陸軍の幹部ですから、ヴォルフが一役買ったんじゃないかな。日記には出てこないですけど。

 そのころの鴎外は、(『椋鳥』開始の)2年前に陸軍の医療関係のトップ(陸軍軍医総監)に就任して、公人として多忙だった。分刻みで行事があったり。作家としても脂がのっていて豊かな時代で、『雁』『青年』とか、代表作がこの時期に発表されています。ゲーテファウスト』の翻訳もですね。忙しいのに『椋鳥』をつづけていて、これは手間のかかる仕事ですね。海外の新聞を丹念に読んでチェックして、校正をやる。55回も休まずにつづけた。きっと愉しかったと同時に、鴎外には強い思いがあった。鴎外はああいう人ですから、一切書いていないんですが、遺された量の充実から判ります。

 連載を読んでいる読者は、あまりいなかった。歌人斎藤茂吉は数少ない読者だったようですけど。読者に拒絶反応が起きる書き方。判るやつに判りゃいいんだって。半分近くに、ドイツ語とかフランス語といった横文字が出てくる。顔をこう横にしないと読めない(一同笑)。「スバル」の編集部もおそらく弱ってたこともあったんじゃないかな。(つづく)

森鴎外 椋鳥通信(上) (岩波文庫)

森鴎外 椋鳥通信(上) (岩波文庫)

 

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