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小原乃梨子とおはなしフェアリーズ 朗読会 レポート(2015年6月)

 ブックハウス神保町にて毎月行われている小原乃梨子氏と “おはなしフェアリーズ” の朗読会へ。

 小原氏は、テレビ『ドラえもん』(1979〜2005)にてのび太を26年間演じていたので、筆者にはそのイメージが強いのだけれども、もちろん他のアニメや洋画の吹き替えの仕事も多数(この直前の6月18日に『ドラえもん』や『タイムボカン』シリーズにて小原氏と長年共演したたてかべ和也氏が逝去し、23日の葬儀には小原氏も出席されたという)。

 朗読会へ行くのがこれで3回目の筆者は、今回は小原氏の自伝エッセイ『声に恋して 声優』(小学館文庫)を持参して店の前で待ち伏せ。緊張して待っていたら、サングラスの小原氏が到着。サインをお願いすると「もう絶版なのによく手に入りましたね。いまは電子書籍だものね」と快く応じてくれた(正直ちょっと怖かったのだが、ひと安心)。

「(朗読会へ)どうぞいらしてください。愉しいですよ」

声に恋して 声優 (小学館文庫)

声に恋して 声優 (小学館文庫)

 やがて、準備を整えた小原氏とおはなしフェアリーズのメンバーがイベントスペースへ。筆者がスペースの外に立っていると、小原氏は「どうぞ中へ入って」と言ってくださったが、親子連れでぎっしりの席にのこのこ入っていくのは気が引けたので、やはり外で聞くことに。スタート直前、小原氏は「女の人は綺麗にしないと、男の人に素敵だねって言われるようにしないとね」と女性メンバーのリボンを直してあげていた。 

 最初の小原氏の挨拶によると、この毎月の朗読会は「今年で15年」だという。

 

小原「(15年という時間は)こんな小さい人がお兄ちゃんになるくらい。これからも、もっともっとつづけていきますね。

 妖精って知っていますか(子どもたちは「知ってるー」)。みなさんは妖精、私たちも妖精、連れてきてくださったお母さんたちも妖精ですよ」

 

 今回は、超満員の盛況ぶり。挨拶の途中に泣き出す赤ちゃんがいたので、小原氏は「ちっちゃい人は泣くのがお仕事ですからね。落ち着いたらまた戻ってきて」と気遣っていた。

学研おはなし絵本 とこちゃんのながぐつ

学研おはなし絵本 とこちゃんのながぐつ

 今回は梅雨や七夕に合わせたプログラムで、まずはかとうまふみ『とこちゃんのながぐつ』(学習研究社)。男性の方が熱く朗読。小原氏は「お兄さんは4人、じゃなくて4匹の役をやってくれました。上手ですね〜」と拍手。

 その後、みなで童謡「あめふり」を唄う。

 

小原「お母さんのお母さんのお母さんのころから唄われています。( “じゃのめでおむかえ” の歌詞について)じゃのめって判りますか。その説明も、お母さま方、お願いします。戦後70年ですからね(笑)」

ふってきました (講談社の創作絵本)

ふってきました (講談社の創作絵本)

 つづいて、もとしたいずみ・石井聖岳『ふってきました』(講談社)を女性ふたりで朗読。空から馬やしまうまなどが降ってくる話で、子どもたちは大受け。

 そこで、童謡「しまうまグルグル」を合唱。

たなばた (こどものとも傑作集)

たなばた (こどものとも傑作集)

 ラストは小原氏による君島久子・初山滋『たなばた』(福音館書店)。

 

小原「もうじき七夕ですね。この絵本は少し難しいかもしれないけど、お母さんにも聞いていただきたいと思って」

 

 人間の牛飼いは、天女の織姫と恋に落ちて求婚する。小原氏が「どうか私の妻になってください」という青年の台詞を読むと、映画『のび太結婚前夜』(1999)や『武器人間』(2013)を思い出す(小原氏の実力は、現在も全く衰えていない)。淡く幻想的なトーンの絵(初山滋)も素晴らしく、特に女の子は結構見入っていた。

 小原氏は少年や青年、妙齢の女性など巧みに演じ分けているが、少年に扮することについて、『声に恋して 声優』ではこう述べている。

 

私は女性だ、どう考えても男の子じゃない、大人の女性の私が男の子を演じるのなら、できることは一つしかない。ペーター(引用者註:『アルプスの少女ハイジ』〈1974〉のペーター少年役)の“心”を表現すること−−−−。男の子らしく作った声など必要ない。私の体中でペーターの気持ちを感じ、もっともっと彼を理解することができれば、私の話す声はペーターのものになっているだろう……。

 子どもを演じるということは、子どもの目の高さで物事を感じるということだ。ふだん私たちが何気なく通りすぎている舗道の街路樹も、彼らにとっては見上げるばかりの大木だし、プラタナスの重なり合った葉の間からこぼれる陽の光は、風のそよぎできらめいてUFOからの光線のようにミステリアスに見えるだろう。

 忘れてしまいがちな素直に感動する心を、私はアニメの少年たちから、たしかな形で受け取っていた」(『声に恋して 声優』

 

 『ドラえもん』で育った当方にとっては、小原氏は“永遠の少年”である。最後に小原氏は、「毎月来てくださいね」と筆者に言って去って行かれた。

 

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