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三谷幸喜 インタビュー(1998)・『今夜、宇宙の片隅で』(1)

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 初監督の映画『ラヂオの時間』(1997)が好評を博した後、脚本家・三谷幸喜がシナリオのみを担当したのがテレビ『今夜、宇宙の片隅で』(1998)。野心的な前作『総理と呼ばないで』(1997)は不評であったが、次作『今夜』は主要登場人物が4人のみ(西村雅彦、飯島直子石橋貴明梅野泰靖)の恋愛ドラマという、ある意味で前作以上に挑戦的な内容だった。

 以下に引用するのは「TeLePAL」(1998年7月4日号 No.14)に掲載されたもので、三谷氏の新作に駆ける思いが語られている。三谷氏の発言に絞って以下に引用したい。

 

 去年の『総理と呼ばないで』(フジ)はとても好きな作品だったし、楽しかったんですけど、いろんなところで叩かれて、失敗作と言われました。でも自慢でもあるんです。田村正和さん、鈴木保奈美さんなどそうそうたるキャストを集めて、(視聴率が)数字1ケタのドラマなんて、ぼく以外に一体だれが書ける!!

 

 たしかに反省点はあります、自分なりの。でもコメディー、とくに群集劇の場合は台本のイメージを現場に伝えるのが難しいんですよね。たとえば、役者さんがどの位置にいるかによって人間関係を見せなくちゃいけない場面は、だれが立っていて、座っているか、だれが奥にいてだれが手前にいるかとか、細かい部分はどうしても現場にお任せということになる。いちいち台本に指定してもいいんですけど、そうするとト書きが膨大になってしまう。ですから群集劇をやるときはできるだけ現場の人たちと密に話して、自分の意思を伝えるか、もしくは自分自身が演出をしないと難しい。自分で監督、脚本を担当した映画『ラヂオの時間』を作ったのもそのためだったんです  

 ドラマの世界って、意外と保守的っていうか、新しいことをやると拒否反応が起きてしまう、視聴者に。で、結局ラブストーリーかホームドラマか、推理サスペンスに落ちついちゃう。でもそういう風潮では、ドラマ全体がおもしろくなくなると思うんですよ。だからこっちは毎回新しいモノに挑んでるのに、数字が悪いとコテンパンに叩かれる。『総理〜』だって打ち切りじゃないのに、打ち切りって書かれるし。最初からあれは11回だったんだーっ。東京スポーツっ。それで新しいものを作るのがこんなに難しい世界なら、あえてその王道に切り込もうと思って。半ばやけくそ気味に。こうなったらラブロマンスをやって、おもいっきり迎合してやるうっ!と(笑)。そういう意味では、ぼくにとって最初で最後のラブロマンスなんですよ

 

 迎合するとはいっても、普通のラブロマンスじゃつまらないし、やるからには今までにない形のものをやりたい。それにやぶれかぶれの自虐的趣味が加わって、視聴率の取れそうな要素はすべて省こうということになりました(不敵な笑い)

 

 いままでのラブロマンスのドラマを片っ端から見直していきました。それで疑問に思ったのが、従来のドラマは本来メーンの男女ふたりだけのストーリーでできるのに、やたらとサブストーリーがはいってくるということ。でも最後に印象に残るのは結局主人公ふたりだけなんですよ。それに群集劇で苦労したこともあって、今回はできるだけ少ない人数で作ってみようと、ま、反動みたいなものですね(笑)。最初はふたりだけでいこうと思ったんですが、“それだけはやめてくれ”と(テレビ局の)編成の方に言われてしまって(笑)

 

 ぼくはビリー・ワイルダーが好きなんですが、彼の映画にはよく酒場のマスターみたいな、主人公のよき相談相手が出てくる。今回は梅野さんがこの役ですが、マスターではあまりに芸がない。稲川さんも松崎しげるさんも皆やってるから。そこで、日本食の食材を扱うスーパーの店長にしました。でも毎回彼は1〜2シーンしか出てきません。後の90%は3人だけでストーリーが進行します。しかもニューヨークが舞台ですが、出てくるのは8割がたアパートの部屋の中だけなんで、めっちゃくちゃ地味なんですよね。いまのところ、数字の取れそうな要素はひとつもないでしょ(笑)

 

 リアルな心理状態のドラマをやりたかったので、日常がそうであるように物語はゆっくり進みます。ジェットコースタードラマなんてくそくらえって感じですよ。ラブロマンスなんですが最初のキスシーンは8話目に登場します。とても展開ののろい、いつも同じ所を回っている、例えていうならメリーゴーランドドラマ。スピード感に慣れた視聴者はたぶんついて来れないと思いますよ。いいんです、だって関係ないもん、数字とか

 

 (放送開始前の5月には最終話を執筆しており)書き始めたのが今年の頭からと早かったので、今までのようにオンエアが始まっても来週撮るものがないという状態ではないだけ、リラックスしています。ただいままでだとオンエアされたものを見ながら周囲の反応を聞いたり、役者さんの演技を見てイメージを膨らませるというのがあったので、1回目も完成していない段階で最終回を書くというのは、結構ドキドキなんですよ

 

 ぼくは朝型なので5時ぐらいに起きますが、そのときは彼女を起こさないようにソッと起きます。結婚生活…、ふたりでいるときは今の自分の気持ちを託して即興で歌ったりします。どんな歌かはここでは言えません。でもみんなやっていることでしょう(??)。ぼくは仕事の話をしますが、奥さんは全然しません。彼女が出ている作品はぼくは見てはいけないという決まりがあるので、『きらきらひかる』も見たかったんですけど1回も見ていません。『超アジア流』も見たことない

 

 結果的に視聴率の低迷した『今夜』は、DVD化もされない不遇の傑作である。このときの妻の小林聡美氏と三谷氏は、2011年に離婚した。

 

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