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私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

山田太一 × 中井貴一 × 堀川とんこう × 内山聖子 トークショー レポート・『時は立ちどまらない』(3)

【撮影現場のエピソード (2)】

山田「橋爪(功)さんと吉行(和子)さんの素晴らしいシーンで、吉行さんはバスで行かざるを得ない。吉行さんの表情、堀川さんの演出もよくて。

 中井さんとギバさんのシーンは殴り合いとして書いたんですよ。アイルランドで撮った映画で『静かなる男』(1952)というのに殴り合いをやる長いシーンがあって、あの効果を出せないかなって。撮影にはぼくもいたんですけど、あのつねるのはおふたりで考えたんですか。あれは秀抜。殴ってるともっと時間もかかるし、つねるというのは中井さんたちの年齢にも合ってるし、参りました」

堀川「中井さんのアイディアですね。私も殴るつもりで、殺陣師も呼んでました(一同笑)」

内山「あの日、山田先生が撮影にいらっしゃるって言ってなくて。“山田先生来ますよ”と聞いて、中井さんは“何!”と(一同笑)」

山田「ぼくが(撮影現場へ)行ったのは、(冒頭の)勢揃いのシーンと殴り合いだけですね。ぼくが行くと、邪魔だろうと(笑)」

中井「撮影前に顔合わせと本読みがあって、山田先生が来られて、堀川さんとプロデューサーーもいて。震災の話だから厳かに始まったんですが、先生は“このドラマのテーマはハグです”っておっしゃって。みんなは、“え、ハグなんだ!”って。先生は“殴り合いでも最終的にはハグに持っていってください。ハグを望みます”と。

 普段の生活で、綺麗な殴り合いって見たことない。駅でもどつき合いくらいで。最後はハグに持っていく距離感をどうするかって逆算して、柳葉さんと話し合って、子どもに戻ったらどうするかって考えていくと、“それじゃつねろう”と。ここもワンシーンワンカット。役者同士って殴るときは大体事前に“本気?”ってこそっと話すけど(笑)、ギバさんとは年齢も同じなんで、それはなし。こう(アイコンタクト)…(一同笑)」

 

堀川「黒木(メイサ)さんは白いワンピースでってぼくが言ったら、助監督が“いまどき白いワンピース着てる女の子なんていませんよ”って。でも漁師の一家との対比で、白いワンピースがいいかなと。年寄りですからね(笑)。

 黒木さんについては、あまり描かれていない。それが心のミステリーみたいでよかったかな。

 中井さんが黒木さんに(息子の)死を告げるシーンで、黒木さんが最後に涙をこぼすか、そのまま出て行くか、迷ったんですよ。俳優さんが泣くのは、視聴者を泣かせる手っ取り早い方法です。すると中井さんがサブ(調整室)に上がってきて、あそこは泣かないのがいいと。放送後には、不満も出たんですよ」

山田「ぼくも聞きました。恋人が死んだのに、泣いてないって。でも最初におにぎりもいらないって言ってたのに、(死を)聞いて、おにぎりもらうって言って何かにつまづく。それが心の動揺ですね。ぼくはそれをホンに書いて、黒木さんはちゃんとつまづいてくださって。 

 現場でシナリオを直すと、みんなのいいアイディアが集まって、ぐちゃぐちゃになっちゃう。(自分も)演出には何も言いませんけど、ストーリーは自分の領分だと。これを直されるとパワーを失っちゃうというか、それぞれのルールを重んじ合ってやるのが、共同作業のルールだとぼくは思っています。

 あの日から時が止まっていたという方もいらして、それはそうなんだけど、でも1年経つと変わってしまう。

 ラストの波は、堀川さんがストップモーションでやってみたいと。(要望は)それしかおっしゃらなかったですね。ぼくは、それは重んじなければならないと」

堀川「あまりいい波のカットが撮れなくて、ちょっとごまかしみたいで。樋口さんの台詞で、いつ誰に何があるか判らないっていうのがありましたので、自然の脅威を最後に入れたかった」

 

中井「ご本人の前で失礼ですけど、山田先生のホンにはものすごくたくさん無駄がある。人間の会話は無駄で成立している。柳葉さんと橋爪さんの会話で“そこでだ、じっちゃん” “どこだ?”。これは普通台本にない。何で“どこだ”が出てくるんだ(一同笑)。役者は無駄な台詞を排除したくなるけど、無駄じゃないと山田先生のホンじゃなくなる。

 山田先生が直すのを許さないって広まったのは、ぼくらにも責任がある。『ふぞろい』のときに、笑い(の台詞で)で“フフ”と“フフフ”はちょっと意味合いが違うと言われたことがありまして、柳沢慎吾というやつが(それをねたにして、“フフ”と“フフフ”を)一言一句変えちゃいけないっていろんなテレビで喋りまくった(一同笑)」

 

【最後に】

山田「80になりましたので(客席から驚きの声が上がる)、少し休みたいなと。(今後は)別のことを考えています。テレビのくっきりした約束はありません」

中井「災害には、お前ら便利さばかり追求するのは追求するのは間違いだぞって言われてる気がする。オール電化の家もすべてストップしてしまう。国民がもっと正面から災害に向き合って、不便が便利と感じられればいいなと。そう伝えられる俳優に、と思っています」

堀川「ちょっと年寄り過ぎて、自分の蓄積したものでいまのテレビをやるって、なかなか難しいですね…」

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