私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

奥山和由 トークショー レポート・『226』『陽炎』(2)

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 本で失踪の話はしましたっけ?

 音楽は千住明さん。いまではベテランですけど、当時はまだ学生みたいな若手でしたね。音楽をつけるポストプロダクションに(五社英雄)監督が体調不良でいらっしゃらない。そのうち西岡(西岡善信)さんのところへ手紙が来て、「叔父が倒れて、いまオーストラリアにいる。後は任せます」って。

 とうとう映画が完成しましたが、監督と連絡はつかない。試写会で役者が集まっても、いない。さらわれたとか、海に沈められたとか、みんな内心で思っていました。いままで無責任なことは一切なく、厳しい人でしたから。そんな人がいないなんてありえない。

 初日に新宿ピカデリーで舞台挨拶したとき、西岡さんに電話がかかって、ひとりで来てって言われたと。監督は京大病院にいて、ロボットに切り刻まれたみたいになってて、何十か所も手術の跡があったそうです。以前病院で見落とされた癌があちこちに転移してて、それを摘出したんですね。監督が外へ出られたら、どこでも飛んでいきますと西岡さんに申し上げました。

 それから何か月も経って連絡が来て、京都の京大和っていう夕方に五重塔が綺麗なところで待っていたら、そこへすごくお痩せになった老人が上がって来た。夕陽の逆光でよく見えなかったから、あれ監督じゃないよなって祈る気持ちだったんだけど…。あ、監督って思ったら胸がいっぱいになって、「大変でしたね」って握手したら、あの五社監督が体を引き寄せて、おれを抱きしめる。耳もとで、「地獄から帰ってきました」って。「監督、何でもやらせてください」って言ったら、「冥土の土産に、あと1本つくらせてください」って。それで“緋牡丹博徒”をやりたい、と。あれは東映ですよ(一同笑)。そしたら「題名変えてもいいから、樋口可南子主演で、お世話になった人を集めたい」って。

 会社は反対するだろうなって思って、帰ったら案の定、そんな病気の人に何て約束してきたんだって。それでバンダイ山科誠社長(当時)のところへ行ったり。東映の俊藤浩磁プロデューサーの京都のお宅に伺ったら、「よう来たな。お前判ってないんじゃないか」と。でも話を聞いたら、協力するよって。

 キャスティングも決まり、『陽炎』(1991)がクランク・インというところで荻野目慶子が事件に巻き込まれた。荻野目自身も身を隠しているし、監督に他のキャストをさがしましょうって言ったら、「私も冥土が近い身で、そういうことはしたくない。向こうでお会いする人に、ちゃんとやってきたと言いたい」って。随分な宿題だなと思ったけど、嬉々とあたりましたよ。次々と問題を解決するという、プロデューサーは才能に奉仕する仕事です。荻野目を見つけて、降りますと言ってる彼女を説得し、会社を説得し…。

 

 でも(完成した)『陽炎』を見て、こんなに弱々しい、と思った。監督の体力が反映されてて、かつての脂ぎったエネルギッシュさがない。部分部分のラッシュではいいけど、全体を見ると弱い。ちゃんと撮ってるし、役者も頑張ってるけど…。すごく責任を感じました。本人がやりたいと言ったからって、はいはいとその通りにやらせるなんてバカでもできるとも言われましたし。

 監督は「好きなように直してくれ」って。それで主題歌をつくろうと。当時人気だった聖飢魔Ⅱに頼みに行った。デーモン閣下が、五社さんのファンだけどぼくなんかでいいんですかって躊躇なさっていたので、監督の希望を全部伝えました。「男は最後の女とやったとき、赤い玉がぽろんと出るんだよ」と監督が言ってたという話をしたら、主題歌のタイトルは「赤い玉の伝説」(笑)。監督に気に入っている台詞を訊いたら、「往生しまっせ!」だと言うので、それで主題歌には樋口可南子の「往生しまっせ!」の声が入るんです。

陽炎 [DVD]

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 遺作の『女殺油地獄』(1992)では、脚本の井出雅人さんも、撮る前に亡くなられていました。五社監督の希望で、『陽炎』の後にもう1本、と。あるとき東京に来ているから出て来てくれと電話で、ホテルへ行ったら、「冥土に行く前にもうひとつあった。井出さんがこれやってくれと置いていったホンがある」と。『陽炎』のとき、会社にこれが最後だって散々言っちゃったから、これは(自分の他に)協力者がいりますよ、お金があればやるけどと言ったら、監督は「じゃあフジテレビにおれが持ち込む。『陽炎』のときはあんちゃんに会ったのが先だったから、まだフジテレビというカードが残ってる。あんちゃんの彼女の藤谷美和子もちゃんと使うからな」って。藤谷が彼女かどうかは明らかにしませんが(一同笑)。

 どうだろうと思ったけど、きょう10分くらい見直したら、これはよかったですね。

女殺油地獄 [VHS]

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 春日太一氏によると、聖飢魔Ⅱのコンサートでは「赤い玉の伝説」を唄う際に、いまでも「往生しまっせ!」の声が入るという。奥山氏の熱い想い出話に聞き入った、忘れ難いトークショーだった。

五社英雄 (文藝別冊)

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