私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

鼎談 藤子不二雄A × 大山のぶ代 × 石ノ森章太郎「ドラえもんは君の愛だった」(1996) (2)

孫子 大山さんは、最初はいつ彼と会ったんですか。

 

大山 初めてテレビの『ドラえもん』の声を入れたあとです。役者としてはまず「先生、あれでいいんでしょうか」って聞きますよね。実は内心、「あれしかないぞ」と思っていたんです(笑)。そうしたら、「ドラえもんって、ああいう声だったんですねぇ」っておっしゃったの。

 

孫子 そんなことを言ってましたか。

 

大山 こんなにうれしい褒め言葉はなかったです。本当にうれしかった。藤本先生はときどきジョークも訥々とおっしゃるんです。だから一瞬間をおいてから、ああ、おかしなことをおっしゃったんだって感じること、何度もありました。

 

孫子 彼は生真面目そうだけど、ジョークが好きでね。トキワ荘の頃も、よく二人で悪戯をしてました。たいてい、彼が計画して僕が実行に移す。

 

石ノ森 そうそう。たとえば、蠟で作ったピーナッツなんかあるでしょ。

 

大山 食べられないおもちゃですね。

 

石ノ森 それがお皿に入れて用意してあるんですよ。仲間はみんな知らずに食べるじゃないですか。でも、そこではわざと吐き出さないで、口を押さえて「ちょっと失礼」って部屋を出て(笑)。

 

大山 みんなも意地があるのね(笑)。でも、トキワ荘では先輩後輩ってあまり厳しくなかったようですね。

 

孫子 本来はライバル同士、ましてや同じアパートに住んでいるから競争意識を抱いて当然なのに、僕らにはまったくなくてね。誰かが売れるとよかったな、自分も頑張らなきゃと、いいほうに思う。

 

石ノ森 この間もテレビのレポーターに「すごいライバルが亡くなった」って言われた赤塚(新漫画党の赤塚不二夫氏)が、「ライバルじゃないよ、兄弟なんだから」って怒ってましたね。みんなで集まっても作品の話はしないし、批評もしない。褒めることも、あんまりしなかったけれども(笑)。

 

孫子 そういえば、僕ら新漫画党の会合にあとから参加したつのだ氏(新漫画党のつのだじろう氏)が、毛筆の決闘状みたいな巻紙を送りつけてきたことがあったな。新漫画党は新しい児童漫画を開拓するための会だと思っていたら、映画や女性のくだらない話ばかりしている。もっと漫画のことを話し合わなきゃだめだ、という非難の手紙で。

 

石ノ森 それほど漫画の話をしなかったということなんですよ。でも、藤本氏が返事を書くことになったんだよね。

 

孫子 彼は参謀格というか、そういう文章を書かせるとうまいんですよ。「漫画家だからといって漫画の話ばかりしてたらだめだ。ほかの話をしたほうがむしろ勉強になる」って書いたら、つのだ氏が感心しちゃって、それまでは酒も飲まなかったのが、酒は飲むわ、煙草は喫うわ(笑)。

 

石ノ森 駄洒落は言うわ(笑)。

 

孫子 そのくせ藤本くん自身は全然遊びをしないんですよ。

 

大山 漫画だけ描いていればいいと?

 

孫子 漫画と映画と読書。

 

石ノ森 読書といえば、僕がちょうど上京した頃、空飛ぶ円盤ブームというのがあって、そういう本や空想科学小説を読んで、その話をしたりしていたんです。後年の『ドラえもん』などに生かされるSF的なアイディアは、全部そこにあったね。漫画とは関係ないものを楽しんでいるなかから、みんなの感覚が培われてきたんだろうな。

 

大山 いまうかがっていて思ったんですが、私たち俳優の世界とは全然違うんですね。俳優座の養成所では、在学中からお互いにライバルなんですよ。あの役を誰がもらうかというところから競争が始まる。ひどいのは、あるいい役のオーディションの告知を口頭で伝えると、どこかで止まっちゃうんですよ。

 

孫子 どういうことですか。

 

大山 その情報を。自分の次の人には教えないんです。そういう世界でも、つき合いの長い仲のいいグループでは、仕事の話をしたことないですね。若かったから、仕事以外でも楽しい話題は尽きなかったし。トキワ荘のみなさんも同じ仕事をもちながら、そこに触れずに人間同士として楽しくやってらしたんだなぁと思います。

  (中略)

孫子 『ドラえもん』のアニメのほうでは、大山さんの声の力がとっても大きい。大山さんの声によってドラえもんが現実の存在となるわけですから。

 

石ノ森 十八年の間に、声が変わったというようなことはあるんですか。

 

大山 声そのものは変わらないみたいですね。ただ、漫画のなかのドラえもんのび太くんと違って、出演者は歳をとってきますよね。『ドラえもん』の声のキャストはスタート当時すでに三十代後半くらいだったんです。それで十八年もやっていると、自分で年齢のギャップをカバーしようと思うのか、以前より声が若返っちゃうんです。

 

石ノ森 それは面白いですね。(つづく)

以上、「婦人公論」1996年12月号より引用。

ぼく、ドラえもんでした。 (小学館文庫)

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