テレビ『淋しいのはお前だけじゃない』(1982)など多数の作品を遺して、2011年に逝去したシナリオライターの市川森一。若き日の市川は『ウルトラセブン』(1967)や『帰ってきたウルトラマン』(1971)などウルトラシリーズのシナリオも執筆しており、『ウルトラマンエース』(1972)ではメインライターを務めた。『エース』は市川としては不本意だったようだが、最終回「明日のエースは君だ!」の台詞「優しさを忘れないでくれ」は伝説的に語り継がれる。
逝去から3年、今年9月に市川を追悼するトークショーが早稲田奉仕園にて行われた。出演は、『帰ってきたウルトラマン』にて市川と組み第31話「悪魔と天使の間に…」を演出した真船禎監督、批評家の切通理作氏、早稲田大学怪獣同盟の方々である。トークの進行役はキリスト教の月刊誌「Ministry」の松谷シンジ氏が務める。
真船監督と切通氏の出会いは、切通氏が「Ministry」2011年1月号にて市川森一と対談した折りだという(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りなので、実際の発言と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
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切通「市川さんと対談するために教会に着いたら男性の方が待っていらして、その方が真船さんでした。ああ、『悪魔と天使の間に』の監督さんだ!と。お顔を存じ上げなくて」
真船「そのとき市川さんと41年ぶりですか。何かの会合で少し顔を合わせたことはあったと思うけど。私は教会に属していまして、その日は関係なかったんですけど、市川さんが来るっていうなら行かなきゃいけないなと。市川さんはびっくりしてましたね」
切通「ぼくは大学時代に同人誌をやったときにお話を伺いました。柿の葉会で市川さんのシナリオ集を担当させていただいて、作品選びはお前が全部やれと言われて。シナリオも全部読んで、『怪獣使いと少年』ではその蓄積を織り込みました。
『エース』の最終回の台詞は聖書の引用だとか、キリスト教の影響は聴いていて」
真船「ぼくがクリスチャンになったのは、まだ10年くらい前。
市川さんは10歳でお母さんを亡くされて、それをきっかけに諫早のキリスト教の学校へ行った。14歳で洗礼を受けられた。早いですから純真ですね。大先輩です。
ぼくは10歳で母を亡くして、キリスト教の学校に入れられた。高校までキリスト教系にいて、72歳でようやく洗礼を受けた。
ぼくたち(テレビ)の世界では、宗教に対する偏見が強い。外からは自由な商売に見えるかもしれないけど、キリスト教を公言するなんて禁句。撮影前に神主さんにお祈りするけど、キリスト教だとか何々を信じてるとは公言できない。特にあの時代はね。市川さんは30代くらいのころから公言されてて、ほんとに勇気があると感動しましたね。(自分が思うより)もっと自然体だったのかもしれないですけど」
【「悪魔と天使の間に…」(1)】
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第31話「悪魔と天使の間に…」は、『帰ってきたウルトラマン』の中でも屈指の名編である。
防衛チームの伊吹隊長(根上淳)の娘・美奈子が、聾唖の少年・輝男を防衛基地へ連れてきた。それは全くの善意なのだが、輝男少年の正体は宇宙人で、ウルトラマンである主人公・郷秀樹(団時朗)にテレパシーで「ウルトラマンを殺す」と宣言する。郷は少年を殺そうとするも、隊長に制止される。だが結局、正体を知った隊長は、少年を射殺。ラストで、隊長が娘の美奈子に、輝男少年は悪の宇宙人だったと告げる直前のところで終わる。
「僕は小二のとき、本放送でこの作品を見終わったとき、伊吹がなぜ輝男の正体のことを娘に黙っていてやらないのか、引っ掛かるものを感じた。やがて高校生のとき、再放送で観返す機会を持った。
ラストシーン。伊吹に真実を告げられる直前の、父の元に走ってくる美奈子の純真な笑顔のストップ・モーション。世のなかには、自分の理念だけではどうしようもないこともある。だが少女の笑顔は、それをまだ知らない。その笑顔を観た瞬間、もう子どもでなくなりつつある高校生の自分の胸に、初めて痛みが走った」(切通理作『怪獣使いと少年』〈宝島社文庫〉)(つづく)
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