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えびはら武司 × のむらしんぼ トークショー “マチコ先生とハゲ丸が語るF先生” レポート(1)

 ドラえもん』(小学館)など多数の作品で知られる不世出の漫画家、藤子・F・不二雄。その藤子・F先生が逝去して今年で18年である。

 5月上旬に阿佐ヶ谷にて藤子・F先生を語るイベントが催された。“マチコ先生とハゲ丸が語るF先生” と題して、『まいっちんぐマチコ先生』(学習研究社)のえびはら武司氏と『つるピカはげ丸』(小学館)ののむらしんぼ氏が藤子・F先生を回顧するというものである。司会は滝沢さくら、橘花もこ両氏。

 えびはら武司先生は、1973年から75年まで藤子スタジオに在籍し、藤子・F作品のアシスタントを務めた。『まいっちんぐマチコ先生』は1980年代にブームを巻き起こし、いまなお描き継がれる大ヒット作である。えびはら先生はトークが上手く、風貌もかっこよく、まるで芸能人のようであった。 

 のむらしんぼ先生は80年代に『つるピカはげ丸』がヒット。『ハゲ丸』は筆者が小学校に進むころにアニメになって人気を博しており、周囲にはかなり『ハゲ丸』が浸透していた。そんな一時代を築いた作家である。藤子・F先生と同じく、月刊誌「コロコロコミック」などで描きつづけておられる。

 えびはら先生が藤子スタジオに入社したころ、藤子・F・不二雄藤本弘)先生と藤子不二雄A安孫子素雄)先生は、同じ建物内で仕事をしていた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや、整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

【藤子・F先生との出会い】

えびはら「昔から藤本先生の作品が好きで、中学高校とファンレターを出してた。印刷で返事をもらったんだけど、当時はそれに電話番号も書いてあったので、そこにかけたんです。昼休みにかけたら、藤本先生が出て「土曜日なら来てもいいよ」って。最初は普通のおじさんかと思って、どなたですかって訊いたら「藤本です」と。

 その土曜日に映画の試写会が当たったんで、約束したのに1週ずらしてもらいました。ちょっと今週、映画へ行きたくなったんでって(一同笑)。

 それで西新宿のスタジオへ行ったら、藤本先生が会ってくれて。ファンと1対1で会うのって、最初で最後。あとは安孫子先生とふたりで会うか、マネージャーも入れて会うか。たまたまそういう巡り合わせですね。『モジャ公』と『21エモン』が好きですって言ったら、当時は(その2作品を)覚えている人はあまりいない時代だったから、それで喜んでくださって、ぼくは「高校卒業したら入れてください」って。

 スタジオへ行ったのは夏で、卒業したらいらっしゃいと。就職課や先生に話したら、みんな呆れてた(笑)。でも4月になっても連絡が来ない。「大人の世界ってこういうもんだ、いらっしゃいってのは追い返し文句だ」って言われて。だから専門学校に入って、入ったその翌日にスタジオから連絡が来た(一同笑)」

 

 『ドラえもん』はすでにスタートしていたが、まだあまり注目されていなかった。

 

えびはら藤子スタジオに入って、昼は学校へ行って、夜とか他の時間はスタジオへ行きました。当時、安孫子先生はめちゃくちゃ忙しかったけど、藤本先生はそんなに忙しくない。

 『オバケのQ太郎』『パーマン』は終わって『21エモン』は藤本先生がプッシュした作品なんですけど打ち切りになって(藤子・F)人気が落ち着いたころだから、わりと暇で。

 『ドラえもん』の人気が出たのは、てんとう虫コミックスになって(まとまって)からですね。出た日にもう2刷になってた(笑)」

のむら「ぼくらは、藤本先生はずっと売れてたみたいなイメージでしたね」

 

【藤子・F先生の人物像 (1)】

えびはら「安孫子先生の『魔太郎がくる!』『プロゴルファー猿』を、スタッフの人はほとんど手伝ってて。安孫子先生の絵は緻密だから、スタッフはみんなそちらへ行くんだけど、ぼくはずっと藤本先生についてました。藤本先生と同じ部屋でずっといたスタッフは、ぼくが最初で最後」

 

 藤子・F先生があまり話さない人だったというのはよく言われる話である。

 

えびはら「藤本先生は、ほんと喋らない人。半日何も喋らないこともあって、ぼくも喋らない人だから(一同笑)おはようございますからさよならまで、何も喋らない。昼も1時に先生はお弁当で、ぼくは外へ食べに行く。いっしょに食べたことはないですね。

 たまにふたりで駅まで歩いても、何も言わない。

 話しかけられるときは「色違うよ」とか最小限の台詞でした。頭の中で整理してから言うのかな。仕事のことはちゃんと話してくれましたね。

 安孫子先生といっしょにいるときは、安孫子先生が9割話す。でもふたりが別れてからは、藤本先生も話さなきゃいけないって思ったみたいですね」(つづく

 

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