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ハロー宇宙人・『実相寺昭雄の不思議館/受胎告知』(2)

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 実相寺昭雄監督「受胎告知」はさほど知られていないが、『ウルトラセブン』(1967)や『シルバー仮面』(1971)の系譜に連なる宇宙人シリーズ。

 『実相寺昭雄の不思議館』と題されたオムニバスシリーズの1本で(「受胎告知」を除くエピソードは他の監督が手がけている)1990年に制作されて1992年に1、2巻が発売。残りは何故かお蔵入りになっていて1997年に『実相寺昭雄のミステリーファイル』と改題されて陽の目を見た。

 朝6時半に夫を送り出した主婦(加賀恵子)。二度寝しようとするが不動産の勧誘や間違い電話、いたずら電話がかかってくる。チャイムも鳴って新聞の勧誘、新興宗教フェミニズム団体、銀行員、管理人、刑事がやってくる。次々現れる来訪者にうんざりしているとやがてドアから青い光が差し込み、何と宇宙人まで訪ねてきた。

 脚本も実相寺監督が担当。主役が『アリエッタ』(1989)や『ラ・ヴァルス』(1990)など実相寺のアダルト作品にも主演した加賀恵子だけにポルノチックなシーンもあり、日常をのぞき見るような展開の果てに宇宙人が現れる。他のエピソードでは当初から怪しい雰囲気だったりあるいは登場人物が異世界に手順を踏んで?飲み込まれたりするのに対して、この作品は何ら奇異なところのない風物に唐突に宇宙人が紛れているのが面白い。訪ねて来る面々が豊川悦司佐野史郎嶋田久作など豪華なのにも笑ってしまう。

 後年の『ウルトラマンティガ』(1997)の「花」でも主人公たちの隣りにいた花見客(三輪ひとみ原知佐子)が宇宙人だった。 

 

この間(…)九州に、飛行機じゃなくて列車で行ったんですよ。空いてるだろうと思って寝台車に乗ったらね、七割ぐらい乗ってるんですよ。

 そんなに乗ってるなんて気持ち悪いでしょ。世の中に見捨てられたような寝台車に(…)ひょっとしたら、夜に宇宙人が集団移住してるんじゃないかって思うんですよ。もし、全部のカーテン開けたら宇宙人がいたかもしれない」(『地球はウルトラマンの星』〈ソニーマガジンズ〉)

 

 この発言は『ティガ』を撮った直後のインタビューで、振り返れば宇宙人がいる、というような空想にふけっていたことが判る。

 実相寺の遺作となったのは『シルバー仮面』をセルフリメイクした『シルバー假面』(2006)。公開は逝去直後だった。パンフレットに掲載された「演出ノート」にて、実相寺は記す。

 

彼は自由な精神に則った、また変幻自在を身につけた、類まれなるヒーローなのである。巨大化(マクロ)から極少化(ミクロ)まで、相手に応じてその姿を変える。時代を遡行することも、彼の特質である。前回、四十年程前には、高度成長期の東京近郊にあらわれた。今回は、大正時代にあらわれる。その様子を、われわれは捕捉することができたのである。シルバーは、古代ローマ帝国にも顔をだす。春秋戦国の時代にも出現する。インカ滅亡の時代にもあらわれる。敗れたかもしれないが、ピサロとも闘ったことであろう。

 あるときは、安土城を見上げているかもしれない。またあるときは、遣唐使の船にのりこみ、怒涛の海と闘っているかもしれない。ルードヴィッヒの城で、オペラを見ているかもしれない。大凶荒の世にも、平和の風にも、地球を見ている。

 「シルバー假面」は、再生したのではなく、われわれが見過ごしていた数十年の間も、時間軸と空間軸の狭間で、現実と超現実の通底路で、戦い続けていたのである。その姿が目に入らなかっただけである

 

 最晩年の実相寺の想念では異人は日常の中に隠れているのみならず、時空を超えて跳躍していた。筆者にとってこの短文は『シルバー假面』本編より印象深い。もしかして、シルバーとは実相寺のあらまほしき自己像ではあるまいか。いまも彼は都電荒川線の乗客に紛れているような、あるいは時間をさかのぼって生まれ育った満州の星空を見上げているような、そんな気がする。不可思議な異人を描きつづけて世を去った実相寺昭雄は、いまも現世に取り残された私たちにとって異人そのものになってしまった。

 

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