私の中の見えない炎

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久世光彦 インタビュー(2002)・『一九三四年冬 乱歩』『蕭々館日録』(2)

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A:ぼくの映画少年の部分は、ドラマの仕事でそれなりに満たされたのに、文学少年の部分は取り残されたままだった。それで小説を書きはじめた、というのがひとつ。もうひとつは、死んだとき、「代表作はドラマの『時間ですよ』など」と死亡欄に載って終わっちゃうのが何となく悔しくてね。なら、ひとつかふたつ、賞をもらうような本があったほうがカッコいいな、と。動機はそんなところですね。

 

Q:今後、ご自分でご自身の著作を映像化されるとしたら、予算に制限のない場合、どの作品を選ばれますか?また、その際にはどなたをキャスティングされるでしょう?

 

A:ぼくは、自分の小説は撮らないんです。原作を他の演出家に提供することはあっても、自分で撮る気は全くない。どうしてですかね。書いた時点で、すでに画(え)を撮ったつもりになっているからかな。映像を、ね。ぼくの文章は、カット割りができていて、ここでカメラを引いて、ここでパンする…といった具合になっていて、それで映像的だと言われるのかもしれませんね。ただ、自分の小説を他の人に撮ってほしいという気持ちはあります。例えば『蕭々館日録』を市川崑さんに撮ってもらいたいな、とか。ぼくは市川さん、大好きなんですよ。

 

Q:久世さんがはじめて小説を発表されたのは還暦近くになってからでした。以来、非常に旺盛な創作活動をされていることに、個人的には中年になって小説を書きはじめて、爆発的な創作を見せた夏目漱石を重ねずにいられません。漱石に対し、久世さんとしてはどの程度、シンパシーを感じる部分がおありでしょうか?

 

A:漱石は『吾輩は猫である』を37歳のときに書いて、49歳で亡くなっている。12年間にあれだけ書いたなんて、驚きですよね。平均寿命が50年の時代で、しかも彼は胃腸が弱かった。30代の終わり頃から、自分にはあと10年しか残されていない、このまま死ぬのは悔しい、という思いがあったんじゃないですか。ぼくも、残された時間はそう多くないと感じています。「最近、死ぬことばかり書いてるね」と言われるのも当然で、遊んでいる暇はないと思っています。例えば、ぼくはドタバタ劇が大好きなんですが、ユーモア小説を書く暇はないんじゃないか、と。それ以外に書かなきゃいけないと思うことがありますし、ギャグばかりの爆笑シリーズは演劇でやることができればいいと思っています。

 

Q:これまでの作品で江戸川乱歩太宰治芥川龍之介に対する思い入れや、その他、作中に引用される詩歌などで久世さんの文学への好みは承知しているつもりですが、他にも影響を受けた小説家、詩人などいらっしゃれば教えていただけますか?

 

A:よく「無人島へ持っていく一冊は何か」というのがありますよね。ぼくは、躊躇なく『吾輩は猫である』を挙げます。いまだにいろいろ勉強になるし、どこから読んでも面白い。ただ、ぼくにとっての漱石の作品では『吾輩は猫である』だけが特別で、『門』『こころ』『道草』『それから』などは深刻すぎて、あまり好きじゃないんです。やっぱり、元気な小説がいいですね。

 まあ、漱石は別格としても、乱歩も太宰も、それから芥川も好きです。詩人では、中原中也三好達治西条八十など、現代の小説では、川上弘美の作品が好きですね。一番は『龍宮』、次に『溺レル』、そして『センセイの鞄』かな。時間がかかるので、もう本を読むのはやめようかとも思うんですが、川上弘美町田康はこれからも読んでみたい。あと、同時代の人で、つねに気になる作家というと、やっぱり筒井康隆さんですね。

 

Q:20年近くもの間、ともにドラマづくりをした向田邦子さんから、「小説家・久世光彦」が影響を受けた部分はあるのでしょうか?

 

A:自分ではないと思っています。一緒に仕事をしていた頃はけなしてばかりでしたが(笑)、でも、やっぱり上手いなと思います。目のつけどころとか、感じ方の違いで、女性にしか書けない文章ってあるんですよね。例えば、法事のとき、ある姉妹が、妹の亭主をはさんで並んでいるシーンがある。廊下の先に水洗トイレがあって、法事もあらかた終わって少しダレたような雰囲気のなか、姉の亭主が用を足しに行く。で、まだ水を流す音が聞こえているくらいのときに妹が行くと、姉は非常に不愉快に思うんです。姉は、亭主と妹の仲をかねてから怪しんでいた、というわけです。そういう、「俺に書けないな」という見事なシーンが脚本にいくつもありました。向田さんは、ドラマでも小説でも、女性が隠したいと思う部分を描く感性は素晴らしく、まさに名人だな、と思いましたね。(つづく)

 

以上、BOOKアサヒコムより引用。

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