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私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

悪い奴ほど手が白い・土曜ワイド劇場『白い手 美しい手 呪いの手』

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 名画座の“シネマヴェーラ渋谷”にて行われている岸田森特集の中で、かなりレアなのがテレビ『白い手 美しい手 呪いの手』(1979)である。

 いまも継続する“土曜ワイド劇場”にて放送されたこの作品は、バラバラにされて殺された女性の手が犯人たちに復讐するというホラードラマ。横溝正史作品などは、伝説や祟りなど超現実的な事象によって殺人が起きたとほのめかされるが、実は人間の仕業だと明らかになるというのが定番であろう。おそらく昔もいまも2時間サスペンスはそういうリアル志向が主流だと思うのだけれども、『白い手 美しい手 呪いの手』は、本当に手が宙を飛んで襲ってくるという、『世にも奇妙な物語』(1990~)のような趣向に驚かされる(火サスでなく土曜ワイドなら許容範囲?)。

 

 商社の課長(萩島真一)と部長(渥美國泰)、食品会社社長(山田吾一)、産業庁の官僚(岸田森)は3億円を横領した。課長と交際する女子社員(堀越陽子)は言われるままに帳簿を操作していたが、あるとき突然の会計検査が決まってしまった。極悪な部長の発案によって、口封じのために女子社員は殺され、バラバラにされる。部長の愛人(原良子)が、『冷たい熱帯魚』(2011)のように死体を浴室で切断。それぞれの部位は、川や山中に遺棄された。だが浴室に残っていた手が、おそるべき報復を開始する。

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 この『白い手』は、『ウルトラマン』(1966)で知られる円谷プロ製作で、以前の『恐怖劇場アンバランス』(1973)の1話「墓場から呪いの手」のリメイクだという。「墓場から呪いの手」は、そのあまりの怖さに『アンバランス』が完成から4年もお蔵入りすることになったという曰く付きの作品である(筆者は、何年も前にCSで見てそれほど怖いとも思わなかったが…)。「墓場から」の脚本は、『ウルトラセブン』(1967~68)や『怪奇大作戦』(1968)などでも知られる若槻文三で、『白い手』は武末勝と若槻の共同脚本とクレジットされている。

 『白い手』の手は、「墓場から呪いの手」の手をはるかに凌ぐダイナミックな行動力で、動き出したら止まらない。怯える官僚(いつもは冷徹な岸田森のオーバーな怖がりっぷりがいい)を追いかけて轢死させると、愛人の首を締め上げてマンションの屋上から追い落とす。他にも、遠くに捨てられたはずの生首を掘り出して食品会社社長の前に突きつけたり、湖水に潜んでモーターボートに襲いかかったり神出鬼没。ばかばかしくて面白いのだけれども、やはりいまの感覚では作り物に見えてしまうのはいかんともし難い。比較的最近の『仮面ライダーオーズ』(2010~11)にも飛ぶ手は登場するが、やはりあちらは格段の進歩を遂げていた。

 クライマックスで、死体の解体が行われたあのバスルームに追いつめられた商社課長の萩島真一。彼の前に、手だけでなく、殺された女子社員の亡霊まで現れる。錯乱した彼も、遂に命を落とす。

 手の作り物っぽさと過剰な芝居に場内では笑いが起こっていたが、しかしこの『白い手』はただの際物ではなく、詩情のある凝ったシーンも挿入されている。序盤の殺しの場面でもクライマックスでも、バスルームには青い光が射していた。部長が和室で死ぬときも、障子を青い光が貫く。殺人現場をそっと横切る黒猫(監督は、テレビ『赤い疑惑』〈1975〉や『赤い運命』〈1976〉などの富井壮吉)。

 

 女子社員の妹(木村理恵)と刑事(長門裕之)が雨の中を去っていく場面で、物語は終わる。いまの2時間ドラマのようにラストに心温まるシーンを無理やり入れたりしない、ストイックさも悪くない。ばかばかしいホラーでありながらちょっとした余韻も残す、別に傑作でもないけれども闇のオアシスのようなひとときであった。

 

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