私の中の見えない炎

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山田太一 インタビュー(1993)・『春の一族』『丘の上の向日葵』(2)

【『丘の上の向日葵』(2)

 『丘の上の向日葵』は何度か、ほかの局の方もやらないかと言ってきて下さったんですが、なんか、しっくりしないところがあった。今度、堀川とんこうさん(プロデューサー)と話してて、とんこうさんとTBSのスタッフでやるのが一番いい形になるような気がしてきたんですね。

 一つ狙ったのは、たたずまいの綺麗な品のいい世界みたいなものを書けないかと。それと、テレビはリアリズムを基本とするし、目の前の現実を材料にしていかざるを得ないところがあるんですけど、我々は目の前の現実だけで生きているわけではなくて観念の世界とか過去とか、いろんなものによって生きている。なんとかそういう要素をテレビドラマに入れられないかと思ったんです。そこで、まど・みちおさんの詩をもとに、私がそこからインスパイアされたものを毎回入れていくというようなことをした。たとえば、

〈人は黙って歩いていても足音で、私はここにいます、ここに生きていますと言っている。蟻も言ってる。蟻の足音なんか聞こえないけど、よく耳を澄ますと一匹一匹、ここにいます、ここで生きていますと言ってる。「蟻に比べれば私たちの足音は大きいね」と言いながら、親子で道を歩いていく〉。 

 そういう次元の会話っていうのはテレビではなかなか書けなかった。ストーリーは停滞してしまうし、それを面白いと思わない人には、何だこれは!ということになってしまう。でも一方では、そういうものを面白いと感じて下さる方がいると思ったんですよ。それを、これは多くの人にはつまらないと言って省いていっちゃうと世界が広がっていかない。

 そういう感覚を持った人たちの世界を書いてみたかった。我々が日常、絶対であるがごとく抱え込んでる現実観っていうのは、実はそんなに絶対でもなんでもなくて、いろんな現実観の一つなんですよ。そういうことを感じさせるような世界を描いてみたかった

 

【その他の発言】

 昨日、ギャラクシー賞のパーティで、『岸辺のアルバム』の頃と今と、どう違うかという質問がありまして、答えたんですけど、いくつか違いはある、その一つは、大半の人が自分は7080まで長生きすると考え出した。それは『岸辺~』の頃にはなかった。長生きになり始めてはいたけれども、皆が、会社を定年になってからも何十年も生きるんだとは思わなかった。そのことは、日本の文化に非常に影響を与えていると思う。定年過ぎて、わりと早く死んじゃうんだったら、そこで一暴れしてというのがあるけど、その後も、ずっと生きるとなると、そう過激なことはできない。

 そういう意味で、過激さというのが非常に影をひそめた。商業主義に抵抗しない作品がどうしても多くなってきてる気がする。みんな物分かりが良くなってきました。でも、世の中って、そういうことだけだと澱んできます。過激なものが引っ掻き回す必要があるわけです

 テレビの状況にもちょっとそういうところがあるんではないかと思うんですよ。私はもう、いい歳ですから、過激というふうな部分には加担しにくい存在ではあるんだけど、でも50代なら50代なりの過激さってあると思うんですね。それで『丘の上の向日葵』でもいわゆる素朴リアリズムではない世界を入れようと。それは見た目には過激でないかも知れないけど、やはり踏み切るには一つ決心を要することなんです。みんなが、少しずつでも人のやらない何かを試みると、テレビドラマはもっと面白くなると思う。

 テレビってものすごく多くの方がご覧になる。でも、作り手に回るのはごく少数なわけですね。その人たちは、責任がある。その人たちが、こっちは当たり筋だからとか、誰かが当てた後を追い掛けようとするのを、やめなきゃいけない。苦しくても、あいつがやっちゃったものはやらないと。それは商業主義の世界では過激なことなんです。 

 それをやらなかったら、ドラマの世界にすぐ澱みが出来てしまいますね。お客さんは、56分観ると見当がついちゃって、ああこのパターンね、となる。この大メディア、こんなにお金を使ってるところで、作り手に回ってる人間が、それじゃいけないんじゃないか。自分の作品についても、なるべく一作一作違うものを書こうと思うんです

 自分の作品があるから、あまり口はばったいことは言えないけど。前にも言いましたように、ライターは自分の作品で人の作品を批評するしかないんですよね。作品のほかで何言ったって、お前書けないじゃないかと言われたら、それっきりだから。ですから、僕のこういう話は、一種のゴタクだと思って聞き流して下さい(笑)

 

以上、『ドラマ』19937月号より引用。

 

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丘の上の向日葵 (新潮文庫)

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