私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

対談 藤子不二雄A × 石子順(1990)・『少年時代』(2)

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藤子:連載とかは続行したものですから、それが大変でしたね。いろいろな人と会って、映画の打ち合わせをして、戻ってきてパッと机に向かってもすぐ書けないんですよ(笑)。石子さんもおわかりでしょうけど、助走期間というんですかね、書く前になんのかんの、こうテレビ見たり本読んだりしながら、だんだん気持ちを乗せていって仕事にかかる。でないとダメなものですから困りました。助走期間をつくろうと思っても、外へ出るとパーッと気持ちが拡散するんですね。

 そんなわけで、なかなか集中してアイデアを練れなくて、めちゃめちゃ原稿は遅れるし、編集の人には叱られるし、なんでそんなことやったのかって言われちゃって。そのジレンマがいまでも大変なんですよ、実は(笑)。

 

石子:撮影現場にも何回か足を運んだのでしょう。

 

藤子:もちろん、去年の7月、クランクインしてからは、けっこう現場に行っています。だいたいそれが映画をやったきっかけといいますか、映画の製作現場に関係者として参加したいという気持ちがまず抑えがたくあったんですよ。

 

石子:実際に現場に行ってみて、映画プロデューサーのご気分はいかがでしたか。

 

藤子:なかなかいいものですよ。非常にスタッフに大事にしてもらいましたので。現場では僕の仕事はまったく何もないわけです。全部それは監督さん、スタッフで仕切ってますから。でも、ただの見物客じゃないし、いちおう行けば、ちゃんと椅子をすすめてくれるわ、お茶を持ってきてくれるわで、大事に扱ってもらえますものね(笑)。ただ映画の現場というのは非常に忙しいですから、なかなか居づらくてね。プロデューサーといえども居る場所がなかなかないんです。邪魔になったりするでしょ。

 

石子:注文をつけたりすることは…。

 

藤子:そんなことはいっさいしませんよ(笑)。監督がカメラを…。

 

石子:のぞかせてくれたんですか。

 

藤子:ええ。それはすごい感激でした。やった!という感じですね。

 

 漫画の連載を終わったとき直ちに映画で再表現したかった

石子:この作品自体は十年前に藤子さんが漫画化されているわけですね。それでこんど映画化でしょ。漫画と映画はずいぶん違うものですが、この作品を漫画にして、さらに映画にしようとされるということでは特別な思いがあったと思うのですが、それは何でしょうか。

 

藤子:僕が柏原兵三さんの原作『長い道』を読んだのが十二、三年まえなんですけど、非常に新鮮なショックというか、感動を覚えたのです。なによりもまず面白かった。とにかく夢中になって読みました。

 僕は柏原兵三さんが好きで、いろいろ読んでいたのですが、たまたま『長い道』は読んでなかったんですよ。全集を持っていて、そこに載っていたのですけど、読んでいなかった。それをうちのワイフが読みまして、面白いから読んでみろと勧めてくれたのです。読んでみたら面白くて、夢中になって、一晩で徹夜して読んじゃった。少年たちの世界の政治抗争というか、権力闘争みたいなものが描かれていて、そういう面白さもありましたけれど、ここに出てくる東京から疎開してきた進二という少年と、田舎のボス的な少年・武という(原作の名前は違うんですけど)、二人の関係が非常に面白かったのです。友情のようでもあり、憎しみのようでもある。微妙で不思議な感情、武という少年の持ってる感情の複雑な二面性というのかな、それがなんともいえずキャラクター的に面白かったのです。僕の漫画というのはほとんどキャラクター漫画で、キャラクターが中心でしょ。

 

石子:そうですね。

 

藤子:だから、この小説を読んだときに、これはユニークなキャラクターが出来るだろうなと思って、それがまず漫画にしたい動機だったのです。もちろん、進二と武、そのまわりの同級生の間には派閥があり、いろんな子どもたちがいますよね。そういう子どもたちのキャラクターが一人ひとり光っていて、これを漫画にしたら実に面白いだろうなと直感したのです。そのころには、柏原さんはすでに亡くなられていましたので、奥さんにお会いして、奥さんも初めての経験だろうと思うけど、小説の漫画化権をくださいとお願いしたのです(笑)。そうしましたら、奥さんが快く承諾してくださって、それで「週刊少年マガジン」に連載をはじめたのです。僕は書くときに、編集長にこの漫画は絶対受けないよと言いました(笑)。当時の漫画週刊誌というのは激烈な競争がありまして、おそらく人気のない漫画は誰のものであろうと、四、五回連載したら切っちゃうわけですよ。

 

石子:そうでしたね。

 

藤子:それは困ると言ったの。一年というサイクルが絶対必要な漫画なんで、昭和19年の夏から20年の、終戦の夏までの一年のサイクルというのが重要な要素を占めているから、絶対に一年連載させてほしい。そのかわり一年たったら、いくら人気が出てやめるなと言われてもやめると(笑)、途中では切らないという確約を得てスタートしたのです。(つづく)

 

以上、『シネ・フロント』第165号(シネフロント社)より引用。 

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