私の中の見えない炎

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向田邦子新春シリーズ(演出:久世光彦)全作品レビュー(4)

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【『華燭』~『風を聴く日(2)】 

13.風を聴く日』(1995)脚本:金子成人

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 突然行方をくらませた父(菅原謙次)が、一年半ぶりに家族の前に現れる。動揺する娘たち(田中裕子、小泉今日子、林美穂)と、病に臥せっている母(加藤治子)。父と母の間に何があったのか…。

 珍しく小林薫が不在の作品(この1か月後に田中 × 小林コンビの『夫婦善哉』〈1995〉があったせいか)。

 3年前の『華燭』の焼き直しというかセルフリメイクのような設定で、父が植物学者なのも同じだが、今回突然家出するのは父のほう。愛人らしき女性(風吹ジュン)と暮らしている父役の菅原謙次が、愛人など全然つくらなさそうに見えるところがよく、意外性を狙ったキャスティングの妙だろう。加藤治子も隠然たる不気味な存在感をふりまき、愛憎入り交じる夫婦の情念をしのばせる。やはり金子脚本と言えば、老夫婦か。

 小泉今日子がシリーズ初登場。『花嫁人形は眠らない』(1986)など久世作品に幾度も出ているだけあって、『麗子の足』の今井美樹のように浮いた感じはなく、するりと溶け込んでいる。

 しんしんと雪が降るシーンの映像美は素晴らしく、久世もこの作品はシリーズの中では特に愛着のあるひとつとして挙げていたという。

 この年の夏から、向田邦子終戦特別企画と称して終戦間際の時代を描くシリーズも始まり、5年に渡ってつづいた。

 

【『響子』~『風立ちぬ(1)

 シリーズの晩期であるこの時期は、長年シリーズを担った金子成人が大半の脚本を担当。プログラムピクチャーとしての安定感は抜群だが、以前の作品の反復のようなイメージも目立った。

 ただしフェティシズムの入った恋愛を描いた『響子』や、老人の死に迫った『終わりのない童話』など、完成度はともかくはっとさせられるような異色作もあり、全くの反復再生産に堕してしまったわけではない。『終わりのない童話』により金子成人は第16向田邦子賞を受賞しているけれども、『華燭』や『風を聴く日』といった過去の金子脚本を上回るほど優れているようにも思えないので、これも功労賞的な意味合いなのだろうか。

 『空の羊』から妹役で田畑智子が加わり、主演映画『お引越し』(1993)を見てファンだった若き筆者は嬉しかった。なつかしい想い出である(笑)。

 

14.『響子』(1996)脚本:筒井ともみ

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 寝たきりの夫(筒井康隆)と暮らす、石材店の長女(田中裕子)。ある夜、彼女は、妻と別居中の職人(小林薫)と関係を持った。

 おそらく金子成人が朝のテレビ小説(『走らんか!』〈1995〉)のシナリオを担当したスケジュールの都合上、脚本は筒井ともみが登板。それゆえなのか、久々に主人公の恋愛が前面に出た(筒井は本作により第14向田邦子賞受賞)。

 この作品を見た誰もが話題にするのは(!?)、田中と小林の石を口移しするラブシーン。ふたりの口が、唾の糸を引き合う(よく夜9時に放送できたもの)。かつて久世と同時期にTBSに在籍した実相寺昭雄監督の『宵闇せまれば』(1968)や『無常』(1970)でも同様の趣向があり、もしかすると意識していたのかもしれない。その強烈なシーンのおかげで、怪作の印象が残ってしまう。

 ラストの田中裕子の茫然とした表情は、忘れ難い。

 

15.空の羊』(1997)脚本:金子成人

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 女ばかりの家庭へ、酔った叔父(名古屋章)が、酒場で会ったという噺家の男(小林薫)を連れて来た。調子のいい彼は、頑なだった主人公(田中裕子)の心を解きほぐしてゆく。

 また今回から、脚本は金子成人が担当。表題の“空の羊”は西条八十の詩の引用で、いかにも八十を愛好した久世らしい(劇中で末の妹〈田畑智子〉が何度となく唱えている)。

 前回がアナーキーだった反動か、ほろ苦い人情話としてうまくまとまっている佳品であり、さすがプロの手腕を感じさせる。だが詩の引用、闖入者としての小林薫など、半年前に放送された向田邦子終戦特別企画『言うなかれ、君よ別れを』を強く想起させる内容で、ねた切れ感も漂う。

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 夏の終戦特別企画には皆勤の戸田菜穂は、本作を皮切りに新春シリーズにも3本出演。田畑智子ファンとしては、リアルタイムではもう彼女しか目に入らなかった(笑)。

 

16.終わりのない童話』(1998)脚本:金子成人

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 書きかけの童話の原稿を拾った主人公(田中裕子)は、その作者である初老の男(石堂淑朗)の家を訪れるようになる。彼には、左翼運動の指導者であったが転向したという過去があった。

 直前の久世作品『人情馬鹿物語』(1998)に田中裕子と小林薫が出演した関係からか、また小林薫は不在。脚本家の故・石堂淑朗が、転向した男の役になぜか起用されていて(若き日は左派で、後年は保守の論客に転じた石堂の実人生にだぶらせた?)、小林亜星浜田幸一といった素人をドラマに抜擢する久世らしいとも言えるが、表現力が必要なこの役は素人の石堂には荷が重かった感もある。

 それにしても左翼運動に揺れる戦前の家庭を描くとは、何と渋いドラマか…。主人公の行動が唐突に感じられるなど完成度は今ひとつの本作なれど、90年代の作品とは思えない地味さに驚かされる。死の影に覆われているのも特徴的で、後半では石堂演じる人物の死が長々と描かれ、田中裕子もこの物語の数十年後に世を去ったことがナレーション(黒柳徹子)で直裁に語られ、その他の登場人物(小泉今日子萩原聖人)もやがて死んだらしいことが言及される。また導入部の舞台になる冬枯れの寺の風景(セット)など、どことなく退廃的なのであった。(つづく)

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