私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

向田邦子新春シリーズ(演出:久世光彦)全作品レビュー(3)

【『わが母の教えたまいし』~『女正月 (2)

8.隣の神様』(1990)脚本:金子成人

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 謎の人さらい・赤マントの噂が東京を賑わしていた。自宅前をいつも通る青年(中村橋之助)に恋する病弱な妹(国生さゆり)のために、出戻りの姉(田中裕子)が一計を案ずる。

 生真面目な婚約者などこのシリーズでは端正な印象だった小林薫は、今回はうさんくさい手品師という役どころ。生命力の強そうな国生さゆりだが、意外と病人に見えなくもない。

 このあたりから、外部から紛れ込んだ異分子(小林薫など)によって、みなが動揺するというパターンが増えてゆく。この作品は、筋は平凡だけれども、ある意味でターニングポイントであろうか。

 暗躍する怪人赤マントのイメージ、ラストで浮かび上がる母(加藤治子)の姿など久世演出は冴えた。もしかすると久世は、愛する乱歩の作品を意識して赤マントの幻想シーンを撮ったのかもしれない。

 

9.女正月』(1991)脚本:金子成人

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 次女(南果歩)が、出版の仕事をしているという恋人(小林薫)を連れてきた。その男は、長女(田中裕子)に妙な視線を向ける。長女は、かつて出版社に勤めていたころ、作家に無理心中を迫られ、生き残ったという過去があった。

 今回は弟(金山一彦)がいるという設定で、家族が女ばかりでないのは珍しい。

 『わが母』以後の本シリーズでは、設定は奇抜でも展開が面白くないケースがつづいており、『女正月』でもその例に漏れない。脚本の金子成人は、女の情念にあまり関心がないのか、どうも定型的に過ぎる。

 本作により久世は芸術選奨文部大臣賞を受賞。だが、この作品がそれほど傑出したものとも思えず、過去の功績も加味しての受賞だったのだろうか。

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【『華燭』~『風を聴く日 (1)

 金子成人脚本になってからどうも退屈になっていったように感じられた本シリーズだが、久々に父親を登場させた『華燭』では夫婦の確執が本格的に描かれ、また一段新しいステージに入った印象がある。向田の「かわうそ」などをヒントにした『華燭』『風を聴く日』における夫婦の暗闘は80年代の作品にはなかった新生面であり、金子脚本の功績であろう。家庭を描くことに重きをおくようになったからこその達成である。またその二作に挟まれた『いとこ同志』ではいとこの男女の情愛が取り上げられ、家族の中の恋愛を扱えば実にうまいものだと感嘆させられた。

 この時期は、80年代につづく第二の黄金期であったと言えよう。

 

10.華燭』(1992)脚本:金子成人

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 6年前に家を出て行った母(加藤治子)が、突然帰って来た。植物学者の父(小林薫)と父を慕う主人公(田中裕子)は複雑だが、妹(相楽晴子)は無邪気に喜ぶ。

 『麗子の足』以来、久々に父親が登場。田中裕子と小林薫が何と父娘役で、母が加藤治子という大胆な采配となった。年齢的にはありえないわけだが、主人公は疑似恋愛のような感情を父に抱いているという設定なので、たしかに適切な配役のように思えてしまうのはさすがである(年配の父親になりきる小林のカメレオンぶりと、当時70前とは思えない加藤の若さもお見事)。役どころも、加藤がいままでの厳しい母とは対照的に奔放な性格で、小林が謹厳実直な父親というのだから、シリーズをつづけて見ていると笑ってしまう。妹役で相楽晴子が加入し、なかなかの好演ぶりを見せた。

 もう若くない夫婦の機微と確執は、部分的に向田の小説「かわうそ」を使っているゆえもあるけれど、凄みがある。3年後の『風を聴く日』といい、金子脚本は女の情念よりも夫婦を描かせたほうが精彩を放つのか。

 

11.家族の肖像』(1993)脚本:金子成人

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  真面目だったという亡父に、隠し子がいた。動揺を隠せない娘たち(田中裕子、相楽晴子、林美穂)と、対照的に冷静な母(加藤治子)。だが、母の内心では修羅が渦巻いていた。

 家庭劇の比重が大きくなってから怖さを増している加藤治子は、前作から一転してまた厳しい母親役。深夜にひとり怒りを募らせるシーンや無表情で長女をひっぱたく演技はかなりのインパクトで、この芝居を加藤から引き出したというだけでも本作の功績と言っていいだろう。小林薫はだらしない男に戻った(笑)。

 終盤は予定調和の展開で、あまり見るべきものはない。

 

 12.いとこ同志』(1994)脚本:金子成人

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 いとこたちがとても仲のいい家族。あるとき、離婚したひとり(小林薫)が、主人公(田中裕子)の家にしばらく居候することになった。

 シリーズ10周年記念作品の今回は、いとこの男女の愛がテーマの秀作。夫婦や家族の確執を描くのならばうまくても、『女正月』『家族の肖像』など主人公の(外部の人間との)恋愛ではいまひとつの印象であった金子脚本だが、家族の構成員同志の恋と来れば巧みなもの。徹底して家庭劇に向いた書き手なのかもしれない。

 淡々とした起伏のない筋の作品がつづいていたこの時期としては珍しく、本作はさまざまな人物が次々と登場して飽きさせない展開になっており、さすが記念作品だけあって娯楽性が高い。

 『華燭』以来出演していた相楽晴子が、今回で離脱する。(つづく)    

向田邦子×久世光彦スペシャルドラマ傑作選(昭和63年~平成3年)BOX [DVD]

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