私の中の見えない炎

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ひこうき雲のそのあとに・『母娘監禁 牝』(1)

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 昨2013年に大ヒットしたアニメーション映画『風立ちぬ』に主題歌として使われたことで、荒井由実ひこうき雲」がまた注目を集めた。この主題歌起用は宮崎駿監督ではなく、鈴木敏夫プロデューサーの発案によるものだった(「H」2013年7月号)。鈴木氏は主題歌を決めることによって、作品に自らの意向を反映させるというのが常套の作戦らしく、『イノセンス』(2004)をプロデュースした折りも、主題歌はないほうがいいと主張する押井守監督に対して、「Follow Me」を主題歌に提案して最終的に納得させたという(「キネマ旬報」2004年1月下旬号)。

 そのように、言わば“後付け”で『風立ちぬ』に起用されたわけだけれども、対照的にひこうき雲が主たるモチーフになっていた映画に、にっかつロマンポルノ末期の秀作『母娘監禁 牝』(1987)がある。この『母娘監禁』の2年後に、『風立ちぬ』と同じ宮崎監督のアニメ映画『魔女の宅急便』(1989)でも荒井由実の曲は流れた(「ルージュの伝言」「やさしさに包まれたな」)。筆者の世代やもっと若い人は、『魔女宅』でユーミンに初めて触れたという人も多いだろう。バブル絶頂の時代、家族向けアニメのヒット作に使われたのと同じアーティストの同時期の曲が、少し前に陰鬱なロマンポルノ映画に使われていたのである。筆者はひこうき雲を聴くと、この作品を思い出してしまう(劇中に流れるのは、よく似た声のカバー版である)。

母娘監禁 牝[ビデオ]

母娘監禁 牝[ビデオ]

 

 水戸に住む3人の女子高生が、冬の海辺で「死んじゃおっか?」「三人いっしょに?」などとふざけて話していた。

 そのひとりが、ビルから投身自殺を遂げる。主人公(前川麻子)の真上に友人が墜ちてくるシーンは衝撃的だ。

 友人に先を越されてしまった主人公は、友人が飛び降りたビルへ行くが、当然立ち入り禁止になっていた。後を追おうとしても果たせない。

 遺された主人公は自分が死に損ねたという気持ちから、テレクラで出会ったサラリーマンを自称する男(加藤善博)と関係を持ち同棲を始める。

 

死んでたのよ、私たち。あんたも私も、本当はいま生きてないのよ。死んでたのよ、余りなのよ

 

 寒々とした水戸の光景は、見る者の閉塞感を募らせる。

 1986年、人気アイドル歌手・岡田有希子が所属事務所の屋上から飛び降り自殺した。岡田の自殺により、若い世代の後追い自殺が多発。その社会背景を知らないと、主人公の行動はやや意味不明であろう。脚本を手がけた荒井晴彦は、『母娘監禁 牝』の意図を回想する。

 

後追いに乗り損ねた子が、生きてることって何か、死ぬことって何かっていうことを考え出すという観念的なことで(シナリオを)書き出したんですよ。後追いも含めてね、死ぬ理由ってあるのかないのか」(『嘘の色、本当の色 脚本家 荒井晴彦の仕事』川崎市市民ミュージアム

 

 当初は幸せな同棲生活だったものの、彼は定職に就かないヒモのような男であり、やがて主人公は暴力をふるわれ売春させられる。(つづく) 

ひこうき雲

ひこうき雲

 

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