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私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

野沢尚 インタビュー “僕が脚本家と小説家を往きつ戻りつする理由”(1999)・『氷の世界』『破線のマリス』(3)

 脚色とは原作を否定すること

――『破線のマリスの映画化は長年の夢だったと聞きましたが(「破線のマリスは乱歩賞用に作ったプロットだったので、それを全部削ぎ落として、非常に純粋な、この話を考えついた時の。これが面白いんだという感じがよく出ました。小説にはないエンディングも付けたし、満足してますよ」。来年春に公開予定)。

 

野沢 僕は山田太一さんの生き方を手本にしてる部分があるんです。あの人も脚本と小説を往きつ戻りつする。いいなぁと思っていたんです。で、ゆっくりお話しする機会があった時に、「自分で小説書いて、自分で脚本にするのはやめたほうがいい」って言われたんですよ。小説を書く時に映像的なシナリオの構図をイメージするようになるから、小説が先細りすると。その時は素直に聞いたんですけれども、絶対自分は小説と映像との違いがわかってると思ってたんで、反対されたことをやってやろうと思ったんです。

 

――やってみてどうでした?

 

野沢 原作を脚色するのは今までも割と多かったんですけど、まずそのスタイルとして原作を否定するわけです。「これは映像にならない」「これは省こう」と。「この人物描写は甘い」とかその原作を切っていく作業なんですよね。要するに脚色の神髄っていうのは、とにかく肉を削ぎ落として白い骨を剥き出しにするっていう仕事なんです。

 

――じゃあ破線のマリスも?

 

野沢 自分の原作でもほとんど変わらなくて、やっぱり否定するんですよね。ただ、守るべき核となる部分というのはあるんですけれけども。

破線のマリス (講談社文庫)

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――これからも脚本化を前提に小説を書くわけですか?

 

野沢 というより、エンターテイメント小説界ってものすごい活気がありますから。そこで自分のポジションを作るっていうのがまず先決ですね。脚本家の中で競い合うということにあんまり興味がないんですよ。自分と同じ作り方をしてる作家がいないわけですから。やっぱり小説の世界で勝負したほうが遥かにたくさんの敵がいる。そこで勝負したいって意識のほうが強いですね。

 

――じゃあ、今は小説のほうが魅力的なんですか?

 

野沢 人間の闇を描くことでは小説のほうが遥かに可能性を感じるんです。むしろ、小説っていう表現形式じゃないとできないだろうと。脚本でできない、映像的じゃないものをどれだけ文章にできるかって、それが勝負なんですよ。

 

――売れっ子シナリオライターいうことで逆に偏見みたいなものってありませんか?

 

野沢 「ストーリーテリングはわかるけど、まるでシノプシスを読んでるようだ」っていう書評はありましたね。書評ってやっぱり突き刺さるんですよ。小説は自分で責任を取るものですから。ドラマには本質を捉えてる批評って全くないんですよね。それと、シナリオライターって時代を読むじゃないですか。小説の世界ではそれをあんまりしないんで、キワモノとして捉えられてしまう。でも、ちょっと不遜な言い方をすると、そこが小説界の未熟なところではないだろうかと。なんで時代をもっと嗅ぎ取ろうとしないんだろうか、と思いますね。

 

――なるほど。

 

野沢 でも、自分と現代が離れていく時って絶対来ると思ってますから、その時になったら小説で勝負するしかないんでしょうね。要するに核となる部分だけで

 

――すると今後は小説がメインになっていくんですか?

 

野沢 多分、小説の量のほうが多いと思いますね。でも脚本をやめるってことはないです。つまり自分の脚色をするから(笑)。どっかでやっぱり自分の文章をいじられたくないんでしょうね。自分の世界を預けられる脚本家がいないと思ってますから。でも、テレビの世界は人気商売で移り気ですから。いつかゴールデン枠でできなくなる日が必ず来ると思ってるんです。だから小説の修業をちゃんとしておきたいですね。

以上、週刊SPA!19991117日号より引用。

  

 「人間の闇を描くこと」が小説ではできるということであるが、このインタビューの6年前に発表されたテレビ『素晴らしきかな人生』(1993)では、完成度はともかく、「闇を描くこと」にかけては十分すぎるほどだった気がするのだけれど

  未完に終わった絶筆『ひたひたと』(講談社文庫)では、書き進めるうちに、その「闇」に著者自身が飲み込まれてしまったかのようにも思えるのだった。 

ひたひたと (講談社文庫)

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