私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

山田太一 インタビュー(2002)・『彌太郎さんの話』(3)

A:「誰かを蘇らせる」ということに関して、ジョン・アーヴィングの『ピギースニードを救う話』という短篇が新潮社から出ているんですよ。少年たちがいじめの対象にしていた知的障害のあるスニードが、ある日、死んでしまうのですが、少年たちにしてみれば後味が悪い。都合のいいように嘘を合成し、スニードは死んでいない、異国で幸福だと思おうとする話です。ぼくはそれをとても面白いと思って、新潮社に「アーヴィングに触発されたかな」って言ったら、「山田さん、そんなことはありません」と。どちらも同じ新潮社なのですが、『ピギースニードを救う話』が出たのは、ぼくが『彌太郎さんの話』を書き始めてからなんです。何年にもわたって書いていたので、何だかごっちゃになっていたんですね。

ピギースニードを救う話 (新潮文庫)

ピギースニードを救う話 (新潮文庫)

 

Q:『彌太郎さんの話』を読みながら、私の頭の中で彌太郎さんの顔と声が山崎努さんになってしまったのですが、山田さんご自身も小説を書きながら、登場人物と俳優を重ねてしまうことがあるのでしょうか?

 

A:彌太郎さんに高倉健さんが重なったという方もいますし、久世光彦さんは伊東四朗さんとか小松政夫さんの名前を挙げていました(笑)。でも、ぼくは、小説を書いているとき、不思議なくらい実在の俳優の顔が浮かんでこないんですよ。それがドラマだと、キャスティングが決まらないと書き出せないようなところがあるんですけどね。

 

Q:山田さんの小説の中の世界では、ある人をめぐる時間が逆行したり、亡くなった人がこの世に現れたりすることがありますが、山田さんご自身も、実際に超常現象のような出来事に遭遇されたことがあるのでしょうか?

 

A:いえ、生活の中でオカルトのようなものに遭遇することはまったくないですね。ただ、オカルト的なものは嫌いではないですよ(笑)。

弥太郎さんの話 (新潮文庫)

弥太郎さんの話 (新潮文庫)

 

Q:山田さんは職業柄、たくさんの本を読まれていると思いますが、読書が脚本のヒントになることはありますか? また、マンガはお読みになるほうですか? 最近読んだ本で好きなものはありますか?

 

A:そうですね、映画や芝居、本などによって目をひらかれるようなことはよくあります。マンガに関しては、以前、福田和也さんと話しているときに山本直樹さんがいいとおっしゃっていたので読んでみたり、柴門ふみさんにいただいた作品を読んだことはありますが、それ以外は、あまり熱心な読者ではないですね。本は好きでよく読んでいます。うまい小説の書き出しなどには、読んでいて幸福感があるというか、この先どう書くのだろうかと楽しくなりますよね。最近楽しんだのは、講談社文芸文庫の『戦後短編小説再発見』(全10巻)です。戦後の表現の冒険とか、ふるさと、家族、生と死、政治についてなど、いろいろなテーマのアンソロジーで、とてもいい短篇がどの1冊にもありますね。

 

Q:山田さんは、今も恋をしていらっしゃるのですか? さしさわりのない範囲で教えていただけると嬉しいです。

 

A:さしさわり、ありますよ(笑)。でも、この歳になるとまず愛されることがないので、どこかで深々とあきらめている恋、というようなものがあるくらいですかね。外国の有名な作家が「歳をとっていいのは、若い子が自分を好きかどうか思い煩わなくなったことだ」と言っています。ボルヘスだったかな。「好かれないに決まっているからね」というのです。私も気楽になりました(笑)。若いころはいいカッコしようとかね。緊張して当然ですが、そういうこわばりがずいぶんとれましたね。

 

Q:五月病になってしまい、身体中が脱力感に支配され、「学生のころはよかったな~」なんて後ろ向きになっています。山田さんもこんな状態になることがありますか? もしあるのでしたら、どんなふうに乗り切っておられるのか教えていただけますか? 

 

A:ぼくも参るときはけっこう参るんですけれども、この仕事って、上手くいかないのはだいたい自分のせいなんですよ。小説を書いているときなんか特にそうなんですが、人を非難することができない。だから、落ち込んでいても、それを救うのは自分しかいないわけです。若い方には難しいことですが、ぼくの場合は過去にもそういうことがあって、結局なんとかなったということが救いになりました。結局人は頼りにならない。自分で何とかしなくちゃと叱りつけ、おだてるという自分流のやり方を徐々につくっていくしかないと思うな。

 

Q:今後の出版スケジュールや、ドラマ、舞台のご予定を教えていただけますか。

 

A:あと2~3カ月の間にマガジンハウスからエッセイ集が出る予定です。が、まだゲラも出ていなくて、タイトルも決まっていません。小説は、書きたいものがあり、是非やろうと言ってくれている出版社があるのですが、来年の秋までテレビと舞台でスケジュールが埋まっていますので、何かの企画が流れれば書きたいと実はひそかに思っています。

 舞台は6月5日から15日まで『浅草・花岡写真館』が新宿の紀伊國屋サザンシアターで、もうひとつ、タイトルは未定なのですが、秋に文学座の公演が紀伊國屋ホールであります。これは脱稿しています。テレビドラマは、9月に『香港明星迷』という、香港に行ってスターの追っかけをすることを楽しむキャリアウーマンの話が放映されます。薬師丸ひろ子さん、室井滋さん、山本未来さん、山崎努さんといった人たちが出演します。『彌太郎さんの話』の話の映像化ですか? お話はいただいているのですが、まだ具体化するかどうかもわかりません。脚本を書くにしても、こちらも来年の秋以降になってしまいますし。(構成:島田明宏

以上、BOOKアサヒコムより引用。

 

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