私の中の見えない炎

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大河原孝夫 × 手塚昌明監督 トークショー レポート・『誘拐』(4)

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【回想の助監督時代 手塚昌明 (2)

 小松左京原作 × 深作欣二監督によるSF大作『復活の日』(1980)にも参加。この映画は裏側にいろいろとエピソードがあり、『映画監督 深作欣二』(ワイズ出版)などを読むと、映画そのものよりよほど面白いくらいである。

 

手塚「『復活の日』では、南極へ半年か一年ロケに行ったんですけど、ぼくは置いていかれてました(笑)。(アメリカ大統領役の)グレン・フォードのシーンも海外で撮ってましたね」

 

 撮影は、『誘拐』(1997)の木村大作カメラマンであった。

 

手塚「多岐川裕美がいるのに、その前で下ねた言うスタッフもいて、下品な雰囲気でしたよ(笑)。

 緒形拳さんが亡くなるシーンで、木村さんが“バカっ”って怒鳴りまくって怖い。深作さんは何も言わない。監督とカメラマン(の相性)が合わないから、厭な現場(笑)。南極でも喧嘩したらしいけど、撮り残しを大雪山で撮ってたら、ふたりの言うこと(指示)が違う。その後、深作さんと木村さんはぐちゃぐちゃで仲違い。でも後で奥さん同士が仲良くなって、それでふたりを仲直りさせちゃった(笑)」

 

 ラストシーンは、ぼろぼろになった主人公の草刈正雄が、湖のほとりでオリビア・ハッセーたちと偶然(?)再会するというもの。

 

手塚「ラストシーンは本栖湖です。(ヒロイン役の)オリビア・ハッセーを日本へ呼んで。これがジュリエットか、とか思いながら(笑)」 

 小松左京が原作・脚本・総監督を務めた『さよならジュピター』(1984)は、『スターウォーズ』(1977)に始まるSFブームのさなかに、和製SFの決定版を企図した意欲作であったが、出来あがりはかなりつらいものがあった。小松総監督の下、監督は新人の橋本幸治が担当。元来SFや特撮好きの手塚監督にとっては嬉しい仕事だったようである。

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手塚「『さよならジュピター』には、一心不乱に取り組みましたよ。毎日徹夜で小道具をつくってたら、三好(三好邦夫)さんが怒っちゃって(笑)。

 あんなにこけるとは思わなかった。予告編で盛り上がったのが、その後しょぼしょぼと」

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手塚「この映画では、小松さんと会えて(主題歌の)荒井由実さんとすれ違ったんです。スタッフルームに髪の長いお姉ちゃんがいるから誰だと思ったら。LP全部持ってますからね(笑)」

 

 小松左京SF魂』(新潮新書)でもご本人が回想しているが、小松総監督は撮影現場にずっといたそうで、本作がデビューの橋本監督はさぞやりにくかっただろう。

 

手塚「小松さんがまた面白いんだ。予算足りないってなったら、翌週には5000万持ってくるんだから。当時小松さんの文庫が売れてましたからね。“手塚くん、結婚したらすぐ新婚旅行へ行くんだ。一生言われるぞ”って言ってました(笑)。

 この後、84ゴジラ(『ゴジラ1984)をやりたいって言ったんだけど、市川崑さんが東宝に働きかけたせいで、ビルマへ連れて行かれて(笑)」(『ビルマの竪琴』〈1986〉

 長年フリーの助監督として各社の作品に参加していた手塚監督は、1994年に東宝映画に入社。

 

手塚「助監督として、ゴジラやって市川崑やって、生活はよかったですよ。市川組にはついてたけど、ぼくはずっとフリーだったんですが、あるとき制作部長に呼ばれて契約になって、半年後に社員になりました。高倉健さんが“よかったね。飯でもおごるよ”と言ってくださって」

 

 市川崑監督の『八つ墓村』(1996)では、その前年にテレビで片岡鶴太郎が主演したバージョンとロケ地がかぶってしまった。

 

手塚「『八つ墓村』は、原作がもともと面白くないんですよ。だから映画にしてもつまらない」

 

 このときは、会社側が主演に豊川悦司を起用し、市川監督は「誰じゃそれは」と言っていたという。

 

手塚「だから演技指導なんかしないですよ。他の人にはバンバン言うのに、トヨエツには何も言わない(笑)」 

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 市川監督の遺作は、1976年に撮ったヒット作を自らリメイクした『犬神家の一族』(2006)。この時点で、市川監督は90歳。すでに監督デビューしていた手塚監督は、師匠の現場にて監督補を務めた。

 

手塚「2006年版の『犬神家』、あれはねえ(一同笑)。一般に監督補っていうのは、助監督と違って、監督に体力がないときに補佐を頼むケースです。監督は、気分は若いつもりなんだけど、歩くと(自分の)足下しか見られない状態で、だから車いすに乗って。セットへ来ても、腰が痛いとか言って、“頼むな”って帰っちゃう(日があった)。松嶋菜々子さんがしみじみ、“前の日に言ってくれればねえ”って(笑)。

 現場のモニターで昔の『犬神家』を見て、“これだ!”とか言ってるんだけど、出来上がりは(昔より)ゆっくりになってる。シーンも全部ゆっくり。“いまのは台詞が速いぞ”ってゆっくりにさせて、才気走った昔の『犬神家』みたいにならなかったですね。90歳の人用の『犬神家』(一同笑)」

 

 正直『誘拐』の話より、助監督時代の想い出をずっと聞いていたいくらいだったが…。ここには書けないような話も飛び出し、なかなかに濃厚なトークでとても愉しかった。お疲れさまでした。

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