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私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

大河原孝夫 × 手塚昌明監督 トークショー レポート・『誘拐』(2)

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【『誘拐』撮影の裏側 (2)

 映画のハイライトである受け渡しのシーンは、困難を極めた。

 

手塚「エキストラ500人を3時間前に集めて、散って支度して、何時何分に集合って。前の日にも、同じ場所でリハーサルをしました。

 エキストラはこっちの仕込みで、その外にいるのは通行人です。2分くらいで撮って、終わると蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。社員に声かけて、(木村)大作さんも親類縁者に声かけて、しょぼいモブシーンにならないようにしましたね。

 報道陣のカメラは、(本物でなくて)ほとんどつくりもの。156台つくった。このカメラは、『絆』(1998)でも使ってます。

 交番で衣装の人が、“田舎から出て来たんですが、歌舞伎座はどっちでしょうか”って狭い交番の真正面に立って訊いて、(警官の)注意をそらす。あのときは、心臓の鼓動が自分でも聞こえました(笑)。

 木村さんも整然とやってましたね。怒鳴ったらばれるから、終わったら怒鳴る。“手塚、何やってんだ!”(笑)」

大河原「警察には、“何してんの”と3回注意して、聞かないと実力行使というルールがある。注意されても、渡(哲也)さんも“中止しませんね?”って顔でこっちを見るし」

手塚「警察が来たとき、監督は“自分はバイトで、あいつが監督だ”と。監督が捕まると、撮影が続行できないから、制作部(のスタッフ)が捕まる。で、その人は始末書です。

 (撮影の)許可はどこも出してくれない。エキストラが動くと、公道が渋滞するし」

大河原「ヘリも一発勝負で撮影しました」

 

 犯人の要求を聞く会社役員室のセットは、70坪の大掛かりなもの。黒澤明監督の名作『天国と地獄』(1963)に迫るために、引いた画を撮りたいという木村大作カメラマンの要望で、大規模なセットが建てられた。

 

大河原「木村さんは『天国と地獄』に負けないぞって言ってて」

手塚「『天国と地獄』に迫ろうって言ってたのは、木村さんだけ(一同笑)。“警視庁を見に行こう、おれが行けば大丈夫だ”って言ってたけど、案の定止められてた(一同笑)」

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【『誘拐』の俳優陣】

 渡哲也は30キロ以上の身代金を担ぎ、永瀬正敏は自転車でそれを運ぶ。画面を見ていて、いかにも苦しそうである。

 

手塚「永瀬さんは自転車に乗って、筋肉痛で痙攣して倒れた」

大河原「(永瀬さんの)乱闘のシーンが、そのせいで(一旦)中止になりました。本人はやりますと言ってたけど」

手塚「その乱闘シーンも、許可なしで新宿で撮りました。あらかじめリハーサルしてたら、テキ屋の兄ちゃんが止めに来て、“違うんです、撮影なんです”って(笑)」

大河原「渡さんと初めて会ったとき、台本に10カ所くらい相談があった。細かいところです。あとは一切(相談)なし。永瀬さんのほうが、細かく訊いてくる」

 

 永瀬正敏の少年時代を、伊藤淳史が演じている。

 

手塚「 “きみ、ちびノリダーだったの?”って言ってたけど、まさかこんなに有名になるとは」

 

 重要な役のひとりの酒井美紀だが、この人の大阪弁が少々不自然である。

 

大河原「方言指導が酒井さんに付いてたんだけど、熊井啓さんの作品(『愛する』1997)とクロスオーバー的なスケジュールになってて、きつかった。最初は全然ダメだったけど、二度目はよくなりました」

手塚「方言指導の人は10年20年のベテランの人がやるから、その間に地元の方言が変わっちゃいますね」

 

 受け渡しのシーンが派手な前半に比べて、謎解きメインの後半がウェットでいまひとつとの声が、公開当時からあったようである。

 

手塚「木村さんは、“後半にもうひとつ見せ場を”と。(物足りないという人は)前半を見て、後半もやってくれると思ったんじゃないか。いまここにいるお客さんは22、3歳のガキじゃないから、カーチェイスとか、そういうふうにならなくても(笑)」

大河原「興行的にもうちょっとよければ、こういうシナリオ本位の作品の流れが生まれたんだろうけど、ベストセラーの原作に頼ったりしてしまう。『誘拐』『絆』を最後に(東宝の自社制作は終わり)、あとは(他社と提携する)制作委員会方式ですね」(つづく)

誘拐

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