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私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

田畑智子 トークショー(甦る相米慎二)レポート・『お引越し』(2)

相米慎二 映画

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 夏になって、いよいよクランクイン。田畑さんが在住した京都での撮影だが、親元を離れて合宿所に泊まったという。

 

田畑「どうやって逃げよう、違う門から帰ろうかとか。合宿所は撮影所の近くで、“帰るな”って言われて、泣きながら電話しました。家に帰ったけど、結局また戻って、“あーあ、戻っちゃったな”って」

 後半、祭りの夜にレンコがひとりさまよう長いシーンがある。この件りは台本になかった。

 

田畑「何でこんな草むらに連れて行かれるんだろうと。人通るの?ってところを登って行けとか、降りて行けとか(笑)。お前はいろいろ経験していくんだぐらいの説明なので、理解していなかったですね。ただもう一回、もう一回と」

 

 どこは悪い、という細かい指示はなく、ただ繰り返した。その証言は、他の相米作品の出演者とも共通する。

 

榎戸「スタッフはみんな、智ちゃんと何を話しているのかなって。こっちは、(土地勘がなく)位置もよくわからないから」

田畑「(ロケ地は)滋賀県に近いところですね」

榎戸「スタッフもただ連れて行かれて、山の中で見てるだけ」

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 クライマックスで、過去の幸せだった時間の情景が、レンコの目の前に現れる。そのまぼろしが消えていくのを見て、レンコは過去の自分を抱きしめる。彼女は、幸せだった時間がもう帰ってこないことを悟り、受け入れたようである。

 

榎戸「夢のシーンは、もうひとりのレンコは吹き替えですけど」

田畑「そこでも(監督は)何も言わないんです。一回しかできないからしっかりやれと」

 

 夢のシーンで水上神輿が燃えるので、一回しかできないということだろう。

 

榎戸「でもそんな指示でしっかり演技したんだから、あなたは天才ですね」

 

 1992年夏の撮影を経て、翌93年の春に公開。田畑さんは、その年の新人賞を独占した。

 

田畑「中学一年になったときに公開されて、お友達と見に行きました。それ以来見ていなくて。見られなかったですね。恥ずかしい気もして、家にDVDはあったんですけど、ずっと封も開けずに、一昨年にやっと」

榎戸「フィルメックス(2011年の東京フィルメックスにおいて相米作品が上映され、田畑さんも出席)の前ですね」

田畑「見たら、台詞が全部入ってた(覚えていた)んです。びっくりしました」

榎戸マトリョーシカじゃないけど、いまの智ちゃんを開けると、レンコが入ってるみたいな(笑)。去年、パリ(のシネマテーク・フランセーズ)で『お引越し』が上映されたときも、11歳の智ちゃんが絶賛されてましたよ」

 

 撮影中は、相米監督に“タコ”“がきんちょ”などと言われつづけたそうだが、新人賞の授賞式で再会したときには、初めて“田畑くん”と呼んでくれたという。

 2013年、田畑さんは、『ふがいない僕は空を見た』(2012)により、毎日映画コンクール主演女優賞を受賞。過去に『お引越し』では同新人賞、『隠し剣 鬼の爪』(2004)で同助演女優賞を獲っておられる(榎戸さんによると「毎日映画賞の三冠達成は初めて」)。円熟した“田畑くん”が再度相米映画に登場することはもうないが、相米監督の力によって、『お引越し』には将来の三冠女王の幼い頃のきらめきが焼きついている。

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