私の中の見えない炎

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『ドラえもんは物語る』は物語る・稲垣高広『ドラえもんは物語る 藤子・F・不二雄が創造した世界』

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 日本人なら誰もが知っている、国民的なキャラクター・ドラえもん。そのドラえもんは、2112年9月3日誕生という設定で、今年2012年に誕生100年前を迎えた。おめでとう!

  ドラえもんは、アニメやキャラクターグッズ、ブームの現象論のような切り口で話題にのぼることは過去に多かったし、いまも少なくない。だが、ドラえもんが、どのような説話において活躍したか、専門的な場ではともかく、公的にきちんと議論(?)されたことが過去にあっただろうか。稲垣高広ドラえもんは物語る 藤子・F・不二雄が創造した世界』(社会評論社)は、その『ドラえもん』のストーリー性に刮目した、異色の本である。 

 1970年1月にスタートした『ドラえもん』は、1996年に作者の藤子・F・不二雄が逝去するまで、1300話が描かれた。本書は、その中から5話(「うそつきかがみ」「かげがり」「ペコペコバッタ」「ゆめふうりん」「ゆめの町、ノビタランド」)を取り上げ、ストーリーを読み解いていくという形式をとる。この5編で描かれたモチーフは、他の『ドラえもん』のエピソードの中にも時おり姿を見せているので、それらも適宜言及される。 

 

 ブラックな笑いに満ちた「うそつきかがみ」をはじめ、『ドラえもん』には鏡をテーマにした作品が多いが(本書に指摘されて初めて気づいた)、アナーキーな展開を見せる怪作「かがみのない世界」に古典落語の影響やラカンの理論との関連を見たり、ホラー的な「かげがり」をアンデルセンやシャミッソーの作品と比較して「かげがり」のユニークさを指摘したり、子どもが自分たちの町をつくるという童話的な想像力に満ちた「ゆめの町、ノビタランド」や藤子・F作品に頻出する「箱庭愛」に佐藤春夫『美しき町』の影響を見たり……博識な著者が紹介する『ドラえもん』の物語世界のバリエーションは、ほとんど何でもありで、とにかく広い。過去に『ドラえもん』を読んでいたが、大人になってずっとご無沙汰だったという人は、もし本書に接したら少なからず驚くのではないか。 

 

 話題が次々と広がっていくだけにとまどうところもあるのだが、読み進むうちに浮かび上がってくるのは、『ドラえもん』のこの上なく豊潤なエンターテインメント性である。また、トンデモな部分を垣間見せつつも「極度に非常識・不道徳なマンガ」を発表することを避けていたり、自作についても「分析的」な思考を忘れなかった藤子・F・不二雄の個性についてもさりげなく論じられている。 

 要約に適さない本書は、一筋縄でいかない『ドラえもん』の沼のような面白味を、そのままに愉しげに告げているのである。 

 

P. S.   つい最近終了したテレビ『仮面ライダーフォーゼ』(2012)では、登場人物のひとりの影が実体化して暗躍、本人を乗っ取ろうとするという「かげがり」のような話があった(第4344話)。『フォーゼ』は、藤子・F作品のファンを公言する塚田英明プロデューサーが手がけているので、もう間違いなく「かげがり」が元ねたであろう。