私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

AKB48 PV考・「真夏のSounds good!」(1)

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 発売一週間で161.7万枚を売り上げたという、AKB48の最新シングル「真夏のSounds good!」。今年あたりそろそろ終わるだろうとささやかれていたAKBブームだが、まだまだ勢いは衰えていないようで、メンバーや裏方たちの膂力には、大したものだと感嘆するほかはない。 

 テレビは嵐とAKBに席巻されていて、時おり眺めているとだんだんAKBを好きになってしまう気もして、もし筆者がいま10代から20歳くらいの年齢だったら夢中になっていたかもしれない、しかしさすがにこの年でAKBファンというのは…と思っていたのだけれども、ついに?今回の「真夏のSounds good!」はDVD入りのシングルを購入してしまった。というのもPVを樋口真嗣監督が演出しているからなのである(前後の文脈がつながっていない)。  

 AKB48の過去のシングル曲のPVは『Love Letter』(1995)や『花とアリス』(2004)の岩井俊二、『告白』(2010)の中島哲也、『誰も知らない』(2004)や『空気人形』(2009)の是枝裕和、『ヘルタースケルター』(2012)の蜷川実花、『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998)の本広克行、『トリック』(2000~)や『SPEC』(2010)の堤幸彦、『北の国から』(1981~2002)の杉田成道など錚々たる映画・テレビ監督が起用されている。この顔ぶれには興味を惹かれて、PVはYoutubeの公式アカウントなどで見ていたが、肝腎の内容以上に気になるのは誰がこの面々にPVを委託したのかということである。 

 岩井俊二堤幸彦は過去にミュージックビデオを多数演出した実績があるので、起用されるのは十分得心できるものの、賛否分かれた『空気人形』の是枝裕和監督や、およそアイドルと無縁そうなドラマ『北の国から』の演出家・杉田成道にAKBを委ねるというのは異色に思えた。もっとも『空気人形』やドキュメンタリー『しかし 福祉切り捨ての時代に』(1991)などで知られる是枝は一方でカンヌ国際映画祭にて高い評価を受けた『誰も知らない』も撮っているので、単にそのブランドイメージで選ばれた可能性もある。 

 この人選は、やはり秋元康・総合プロデューサーの意向なのだろうか。 

 銭ゲバ作詞家とも揶揄される秋元康だが、実はコアな映画マニアでもある。昨2011年に逝去した森田芳光監督との対談において秋元は、かつて「キネマ旬報」を愛読していて『田園に死す』(1974)、『青春の殺人者』(1976)などのATG作品が好きだとか、レンタルビデオがない時代に「『あらかじめ失われた恋人たちよ』(1971)の上映を必死に探して観にいった」とか、「『ドライビング・ミス・デイジー』(1989)のような淡々とした」映画をつくりたいといった話に興じていて、意外な一面を見る思いであった(『森田芳光組』〈キネマ旬報社〉)。この発言を考慮すれば、秋元の発案とも思える。 

 ただPVの豪華監督陣の面子を見ていると、アート志向の人だけでなくエンタメ派まで加わっているので、単にミーハー的に有名監督を片っ端から並べただけとも考えられるのだが…? 

 「真夏のSounds good!」PVは『ローレライ』(2005)や『日本沈没』(2006)の樋口真嗣監督が演出した。樋口監督は、もとはアニメ・特撮畑で『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)の特技監督で知られるようになり、テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)やその劇場版『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』(20072009)にもスタッフとして参加(主人公・シンジ君の名は樋口監督からとられたらしい)。『風の谷のナウシカ』(1984)の巨神兵をフィーチャーする新作短編映画の監督も務めるという。過去の監督陣と同様にAKBと樋口監督とは特に接点もないように思えるけれども、その関係のなさゆえか、今回のPVは過去の作品と同じく(あるいは、それ以上に)監督の趣味嗜好が突出するものとなった。 

 先述のとおり名だたる監督・演出家が登板するAKBPVは、短い時間にそれぞれの作風が強引に刻印されたものになっている。岩井俊二の「桜の栞」は淡い青春ドラマ調で『花とアリス』(2004)風、中島哲也Beginner」は情報量の多い人工的な映像(しかも残虐シーンつき)、蜷川実花ヘビーローテーション」は赤を中心に装飾的な画面設計、本広克行Everyday、カチューシャ」は過去のPVの名場面を再現したコラージュ、とそれぞれの監督陣はPVの枠組みの中で、健気に自身の個性を出そうと腐心しているかに思える。というか、AKBの面々を立てつつあなたの個性を出しなさいというオーダーがあるのだろう。(つづく