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私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

不思議時空発生・『トリック』

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 今年はテレビ『トリック』の第1シリーズ(2000)が発表されてから10周年だそうで、その1作目の第1~3話が年末に再放送されていた。第1シリーズはリアルタイムで見ていなかった筆者は、知人にあれ面白いよと聞かされ、翌年くらいに再放送で見た記憶がある。


 それ以来8~9年ぶりに見たわけだけれども、これを機会に『トリック』史を振り返ってみたい。

 

 

 『トリック』は、売れないマジシャンの奈緒子(仲間由紀恵)と自信家のタレント教授・上田(阿部寛)がコンビを組んで、怪事件に挑戦する物語。ふたりともあれほどの美男美女なのに信じられないくらい捨て身の漫才ぶりで、まずそのキャラで笑わせるのだが、そこにカツラの刑事・矢部(生瀬勝久)が必ず絡んできて、この三者の掛け合いが売り物のひとつとなっている。
敵役として毎回いかがわしいカルト教団や自称霊能力者の詐欺師などが登場。そして奈緒子たちが謎解きをして彼らを倒す、というのが毎度のパターンとなっている。もっともその“トリック”は決まって原始的で安っぽく、盛り上がりは忌避され、結果的に作品にはしらっとしたようなクールな雰囲気が生まれるのだった。



 

 第1シリーズの冒頭3話(母之泉篇)を久々に見直して、こんなにシリアスだったかと意外に感じた。主役のふたりの出会いから謎のカリスマ(菅井きん)が率いる宗教団体の本拠地に乗り込んで戦うまでを描いていて、敵の宗教団体の悲劇が思いのほか色濃い。一方で主役コンビの夫婦漫才は、スタートの時点から息が合っていて愉しめる。この事件は、結局解き明かされないまま放置された謎もあって、作りの荒さも感じられるが、シリアスさと笑いとのバランスという点ではシリーズ屈指の出来映えであった。ふざけているのか大真面目なのか、見ていてとまどうような時空間が強烈な魅惑を放っていたのである。



 第1シリーズが送り出されたのは、2000年代のとば口だった。1990年代は、幸福の科学騒動に始まり、統一教会問題やオウム真理教事件など、宗教がらみの犯罪やトラブルが相次いだ時期である。また、サイババなども話題をふりまき、特殊能力に対する関心も強かった。そして、それらが馬脚を現して、オカルトに対する不信感が世間に広がったタイミングで、『トリック』第1シリーズは登場する。いまになって思えば、怪しげな宗教や霊能力を揶揄してみせる作品としては、まさに早くもなく遅くもない絶妙な時期だった。

 

 当時としては地味な配役と23時という時間のせいもあって、大きな話題になっていなかったものの、第1シリーズは一部で好評を博した。そして第2シリーズ、映画化、第3シリーズとシリーズはハイペースで継続するが、作品がメジャー化するにつれて、シリアスな部分は次第に後退していく。第2シリーズ以降は、敵役であるオカルト関係者たちの悲劇性は添え物のように描かれて、『トリック劇場版2』(2006)になるとほとんど点景と言っても過言ではない。



トリック トロワジェムパルティー DVD-BOX

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 メジャーになった以上、より広範な支持を得ることが責務であるので、第3シリーズくらいになると、トリックの謎解きがやけに懇切丁寧に説明されるようになった印象もある。ギャグが全面に出たのも、同様にメジャー化の影響とも考えられるが、もうひとつの要因として、時代の変遷も挙げられるのではないだろうか。


 2000年代の傾向として、オカルトが大きな話題を振りまくことは少なくなった。もちろん、衆院選に出馬するなど一部の宗教活動は活発に行われているけれども、世間の関心は“年金”やら“格差”やら全く異なる次元に移った。


 作り手たち(プロデューサーや、多くのエピソードを手がけた堤幸彦監督)のインタビューなどをいくつか読むと時代背景に言及するそぶりは、筆者の知る限りは見られないものの、先述の通り2000年というタイミングに第1シリーズを発表した彼らである。無意識的であれ、やはり時代の風を読んで、『トリック』の方向転換を図ったのではなかろうか。


 

 結果的に『トリック』は、おなじみの面々によるコントが売り物の、水戸黄門的な“ご存知もの”の様相を呈するようになる。従って第1シリーズのころのような、冗談なのか本気なのか判りかねる空気が生むスリリングさは影を潜めてしまった。
第1シリーズの時点では主に脇役のイメージが強かった仲間・阿部コンビは、いまや主役級として押しも押されぬ存在となった。紅白歌合戦で顔を合わせたふたりが、『トリック』の台詞を言ってみせるさまなど、マイナーだった第1シリーズからリアルタイムで見ている人には、隔世の感があるだろう。

 そんな光景を目の当たりにして、また『トリック』の変質に思いを致すと、90年代の終わりから2000年代を経て現在まで、いつのまにか私たちはずいぶん遠くまで来てしまったな…と奇妙な感慨にとらわれるのである。

 

P.S. 作り手もコミカル側に振りすぎたと思ったのか、この後に公開された『劇場版TRICK 霊能力者バトルロイヤル』(2010)などでは、シリアス性が強まっていた。